用語集・基礎知識
用語集(50音順)
このホームページに出てくる一般の方には見なれない専門用語の解説のため、以下の用語集を作りました。ぜひご活用ください。
アマニ(あまに)油
フラックス油
アマ(亜麻)という植物の花の種子(亜麻仁)から採れる油のこと。アマニ油は食用のほか、絵具や工業用油としても使用される。亜麻仁油にはα-リノレン酸が総脂肪の約60%と非常に多く含まれる。熱に弱いので、サラダのドレッシングや各種料理にかけて生で利用する。酸化しやすいため、開封後は冷蔵での保存が勧められる。
アラキドン酸
炭素数20、二重結合4個のn-6系多価不飽和脂肪酸。卵や肉などの動物性食品に含まれる。体内では、リノール酸から、γ-リノレン酸を経てつくられる。細胞膜に存在するリン脂質の構成成分として重要な働きをもっている。アラキドン酸はホスフォリパーゼA2によってリン脂質から遊離し、エイコサノイド(プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエン)に代謝され、血管拡張・収縮や血小板凝集などの生理活性をもつようになる。
α-リノレン酸
炭素数18、二重結合3つのn-3系の多価不飽和脂肪酸。体内では生合成できないことから必須脂肪酸の1つである。植物油に比較的多く含まれる。また、エゴマ油(シソ油)やアマニ油には約60%と高濃度に含まれる。α-リノレン酸から体内で鎖長延長、不飽和化を受け、EPA、DHAに代謝される代謝経路が存在する。α-リノレン酸摂取による肥満抑制、冠動脈疾患予防効果が期待されている。
エイコサノイド
イコサノイド
炭素数20の脂肪酸であるアラキドン酸(n-6系)やEPA(n-3系)から産生される生理活性物質(メディエーター)。プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエン等がある。アラキドン酸やEPAは細胞膜リン脂質に存在するが、生体が刺激を受けるとホスフォリパーゼA2によって遊離する。さらに、シクロオキシゲナーゼ(COX)が作用するとプロスタグランジンやトロンボキサンが、リポキシゲナーゼ(LX)が作用するとロイコトリエンが生成される。これらは、血小板凝集、血管収縮、子宮筋収縮、消化管平滑筋収縮、白血球誘引など、さまざまな炎症反応に作用する。アラキドン酸から産生されるエイコサノイドに比べて、EPAから産生されるエイコサノイドの炎症反応は弱い。また、炎症促進だけでなく、抗炎症性・炎症収束性の脂質メディエーターも産生されることが示されている。さらに、炭素数22の脂肪酸であるDHAからも抗炎症性の脂質メディエーター(ドコサノイド)が産生される。
エイコサペンタエン酸(EPA)
イコサペンタエン酸(IPA)
炭素数20、二重結合5個のn-3系(ω3系)多価不飽和脂肪酸。イコサペンタエン酸(IPA)とも呼ばれる。ドコサヘキサエン酸(DHA)とともにいわしやさばなどの魚介類に豊富に含まれる。アラキドン酸とともに、プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエンなど特有の生理作用をもつエイコサノイドへの前駆物質となる。EPA由来のエイコサノイドは、梗塞性疾患の予防作用をもつことが知られている。
エゴマ(えごま)油
シソ(しそ)油
エゴマの種子から採れる油のこと。エゴマはシソ科の一年草であるため、シソ油とも呼ばれる。日本では平安時代の古くから食用の他、灯火用等で広く利用されてきた。エゴマを食すると十年長生きすると言われることから、福島県内ではエゴマのことを「じゅうねん」と呼ぶ。エゴマ油にはα-リノレン酸が総脂肪の約60%と非常に多く含まれる。熱に弱いので、サラダのドレッシングや各種料理にかけて生で利用する。酸化しやすいため、開封後は冷蔵での保存が勧められる。
オメガ3(n-3)脂肪酸
脂肪酸炭素鎖のn-3位〈ω3位〉(メチル基側から数えて3番目の位置)に最初の二重結合が位置している多価不飽和脂肪酸の総称。α-リノレン酸(炭素数18、二重結合3)、エイコサペンタエン酸〈EPA〉(炭素数20、二重結合5)、ドコサヘキサエン酸〈DHA〉(炭素数22、二重結合6)が代表的。α-リノレン酸はおもに植物油に、EPA、DHAは魚油に多く含まれる。α-リノレン酸はヒト体内で合成することができないため、必須脂肪酸として取り扱われているが、α-リノレン酸からEPA、DHAは合成できる。DHAは細胞膜リン脂質成分として、また、EPAはプロスタグランジンやトロンボキサン、ロイコトリエンなど重要な生理活性を有するエイコサノイドに変換する。これらは、n-6系脂肪酸のアラキドン酸から変換されるエイコサノイドと異なる生理活性をもつ。
オメガ6(n-6)脂肪酸
脂肪酸炭素鎖のn-6位〈ω6位〉(メチル基側から数えて6番目の位置)に最初の二重結合が位置している多価不飽和脂肪酸の総称。リノール酸(炭素数18、二重結合2)、γ-リノレン酸(炭素数18、二重結合3)、アラキドン酸(炭素数20、二重結合4)が代表的。リノール酸はおもに植物油に含まれており、ヒト体内で合成できないため必須脂肪酸として取り扱われているが、リノール酸からアラキドン酸は合成できる。アラキドン酸は、プロスタグランジンやトロンボキサン、ロイコトリエンなど重要な生理活性を有するエイコサノイドに変換する。これらは、n-3系脂肪酸であるエイコサペンタエン酸〈EPA〉から変換されるエイコサノイドと少しずつ異なる生理活性をもつ。リノール酸は血清コレステロール低下作用を有する。
コレステロール
ステロイド核を基本構造とし、動物組織の細胞構造をつくっている脂質。生体内で合成される。食品では動物性食品に含まれる。特に卵黄には多い。普段私たちが食べている食事からの摂取量は約0.3~0.5g/日であり、そのうちの約40~60%が吸収される。細胞膜成分として重要な働きを持つ他、胆汁酸、性ホルモン、副腎皮質ホルモンの前駆物質となる。血中コレステロール濃度は130~220mg/㎗であり、臨床的指標として重要であり、甲状腺機能亢進症、肝硬変では低下し、胆汁うっ滞では上昇する。
脂質
水に不溶で、エーテル、クロロホルム、アセトンなどの有機溶媒で抽出される成分。生体内に存在する脂質としては、中性脂肪、コレステロール、リン脂質、脂肪酸などがある。中性脂肪は皮下および内臓周囲の脂肪組織を構成しており、リン脂質やコレステロールは生体膜および神経組織を構成している。糖質およびたんぱく質に比べて中性脂肪の1gあたりの燃焼値は9kcalと高く、エネルギー源として重要である。脂質の過剰摂取は、体脂肪を増加させ、血中中性脂肪を増加させることから、食事摂取基準では1歳以上のすべての年代で総エネルギーの20~30%を目標量としている。また、生体機能に深く関わりをもつことから、摂取する食品の油脂(中性脂肪)を構成する脂肪酸の種類およびその比率にも注意を払わなければならない。
脂肪酸
中性脂肪等の脂質の主要な構成成分。天然のほとんどのものは炭素が偶数の直鎖状である。炭素鎖が飽和のもの(単結合のみ)は飽和脂肪酸、不飽和(二重または三重結合を含む)のものは不飽和脂肪酸と称する。二重結合を1個もつものを一価不飽和脂肪酸、2個以上持つものを多価不飽和脂肪酸と呼ぶ。脂肪酸はエネルギー源(9kcal/g)として利用される他、炭素数20以上、二重結合3個以上の長鎖多価不飽和脂肪酸は細胞膜リン脂質の構成成分として働く。長鎖多価不飽和脂肪酸は、必要に応じて、プロスタグランジンやトロンボキサン、ロイコトリエンなど重要な生理活性を有する物質に変換される。
ドコサヘキサエン酸(DHA)
魚油に含まれるオメガ(n-3)系多価不飽和脂肪酸。炭素数22、二重結合6個。マグロやアジなどの青魚類に多く含まれる。脳中のリン脂質の成分でもあり、その機能維持にも関係していると考えられている。エイコサペンタエン酸(EPA)とともに血栓症予防効果をもつ他、アレルギー炎症反応抑制、大腸がん、乳がん予防にも効果があると考えられている。
トランス脂肪酸
トランス型不飽和脂肪酸
脂肪酸の二重結合が、天然のシス(cis)型ではないトランス(trans)型の脂肪酸。主に植物油脂を原料とし、水素添加によって固化した油脂(ショートニング、マーガリン等)に含まれる。FAO/WHO合同委員会は、トランス脂肪酸の過剰摂取は、血液中のHDLコレステロールの減少、LDLコレステロールの増加を促し、冠動脈性心疾患のリスクを高めると報告している。WHOが心血管系疾患のリスクを下げ、健康を増進させるためのトランス脂肪酸の目標摂取基準を、総エネルギー摂取量の1%未満としている。なお、日本人のトランス脂肪酸の摂取量は、平均で総エネルギー摂取量の0.3%であることが分かっている。
リノール酸(LA)
必須脂肪酸の1つ。炭素数18、二重結合2のオメガ(n-6)系の脂肪酸。植物油に多く含まれる。生体内では、エネルギー源となる他、同じオメガ6の脂肪酸であるアラキドン酸に代謝され、プロスタグランジン、トロンボキサンなどの前駆体ともなる。ヒト血清中では総脂肪酸の約5%を占める。一般にリノール酸、リノレン酸など不飽和脂肪酸含量の高い油脂は自動酸化を受けやすく、加熱重合を起こしやすい製品が多い。
基礎知識
脂肪酸の略号表記ってどのようになっているの?
脂肪酸の構造は炭素の数と二重結合の数およびその位置(メチル基側から見て最初に二重結合がある位置)で決定されるので、これらを用いて脂肪酸を略号表記する場合がある。例えば、ステアリン酸は炭素鎖18で二重結合が0の飽和脂肪酸なので18:0、リノール酸は炭素鎖18で二重結合が2個・その位置n-6(ω6)の多価不飽和脂肪酸なので18:2n-6または18:2ω6と表記する。炭素数(C)を表す数値なので、C18:0やC18:2n-6のように先頭にCをつける場合もある。
グリーンランド先住民とデンマーク人の疫学
デンマークのJ. Dyerbergらは伝統的な生活をしているグリーンランド人(グリーンランド先住民)の食生活と健康について長年疫学調査(健康状態などについて地域に生活をしている多数住民を対象とした調査研究のこと)を行ってきました。その結果、伝統的な生活をしているグリーンランド人には心筋梗塞などの血栓性疾患が、欧米白人に比べて非常に少ないことが明らかとなりました。食事との関連を調べてみると、伝統的な生活をしているグリーンランド人では魚やアザラシから摂取されるEPAやDHAの摂取量が多かったのです。血中EPAとDHA濃度が欧米白人に比べてはるかに高く、さらに、血小板凝集能が著しく低く、出血時間が延長していたことも認められました。
EPAから変換された生理的活性物質エイコサノイドは、アラキドン酸から変換されたものに比べて血小板凝集作用が弱く、その結果、EPAを多く摂取している伝統的な生活をしているグリーンランド人では体内で血液の固まる頻度が低くなり、血栓性疾患を引き起こす確率も低くなるわけです。これらの調査研究から、伝統的な生活をしているグリーンランド人で血栓性疾患が低い理由は、遺伝的なものでなく、食事に起因していることが明らかとなったのです。