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用語集、基礎知識

*このホームページででてくる一般の方には見なれない専門用語の一部には、解説のために以下の用語集とリンクを作りましたので御活用下さい。

川端輝江、増沢康男

脂肪酸

私達がふだん何気なく食べているバター、サラダ油、豚や牛の脂肪、魚の油などの油脂の主成分は中性脂肪(トリアシルグリセロール)と呼ばれる物質で、その性状(室温で液体あるいは個体といった違い)と栄養学的な質を決めているのが中性脂肪の大部分(90%)を占める脂肪酸です。

脂肪酸は炭素が鎖状に配列した分子構造を持っています。その炭素の鎖の長さと炭素同士の結合方法によっていろいろな種類の脂肪酸があります。炭素の鎖の長さで分類した場合、短鎖、中鎖、長鎖脂肪酸に分類されます。バターや牛乳中には短鎖や中鎖の脂肪酸が含まれていますが、私達が一般に食べる食品中の油脂の多くは長鎖脂肪酸に属するものです。さらに脂肪酸は、炭素同士の結合方式によって大きく飽和と不飽和に大別することができます。パルミチン酸などの飽和脂肪酸は化学式の炭素の結合手が全部水素で満たされているもので、化学的には安定な構造です。一方、不飽和脂肪酸は炭素の結合の中で、水素の不足した二重結合と呼ばれるつながり方を部分的に持っているもので、酸素によって過酸化を起こしやすい不安定な構造です。さらに、不飽和脂肪酸は二重結合の数によって分類されます。その分子中に二重結合を1つだけ持つものを一価不飽和脂肪酸、2つ以上持つものを多価不飽和脂肪酸と呼んでいます。オレイン酸は二重結合を1つ持つことから一価不飽和脂肪酸、リノール酸は二重結合を2つ、α−リノレン酸は3つ、アラキドン酸は4つ持つことから多価不飽和脂肪酸の仲間となります。魚の油に多く含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)は二重結合を5つ、DHA(ドコサヘキサエン酸)は6つも持った多価不飽和脂肪酸です。

油脂はこれらの脂肪酸によって構成されるわけですが、天然に存在する油脂は単独の脂肪酸で構成されるのではなく、いくつかの脂肪酸が一定の割合で混ざり合って構成されています。さらに、油脂の種類によって脂肪酸組成は大きく異なっています。例えば、豚肉の脂にはオレイン酸、パルミチン酸などが、植物油にはリノール酸、オレイン酸などが、魚にはEPAやDHAなどの脂肪酸が多く含まれます。また、同じ植物油でも原料によって脂肪酸組成に特徴がみられます。一般的に調理などに使用する調合サラダ油(菜種と大豆の混合油)にはリノール酸が、地中海料理でよく使用するオリーブ油にはオレイン酸が、紫蘇油や亜麻仁油にはα−リノレン酸が豊富に含まれています。

これら食用油を構成する脂肪酸は、私達の体内ではエネルギー源として利用されます。さらに、一部の脂肪酸はリン脂質に取り込まれて細胞の膜の成分となったり、脳などの神経組織の重要な成分になったりします。また、生理的活性物質(体の代謝を調節する物質のこと)に体内で変換されて、特殊な役割を持つようになる脂肪酸もあります。


n-6系脂肪酸、ω6、omega-6

n-3系脂肪酸、ω3、omega-3

脂肪酸の中には私達が生体内で作ることができない、しかし、体にとって重要な役割を持つものがあり、この脂肪酸を必須脂肪酸と呼びます。必須脂肪酸にはリノール酸、α-リノレン酸、アラキドン酸があります。

必須脂肪酸はいずれも多価不飽和脂肪酸であるため、構造中に二重結合を持ちますが、その位置によってn-6系とn-3系の2種類に分類することができます。n-6系多価不飽和脂肪酸は、ω6、omega-6とも表記し、必須脂肪酸のうちリノール酸と生体内でそれから代謝されてできるアラキドン酸などが属します。一方、n-3系多価不飽和脂肪酸はオメガω3、omega-3とも表記し、必須脂肪酸であるα-リノレン酸と生体内でそれから代謝されてできるEPA、DHAなどが属します。食事からリノール酸を取り込めばアラキドン酸が、食事からα-リノレン酸を摂取すればEPA、DHAを作ることも可能です。しかし、互いにn-6系の脂肪酸はn-3系に、n-3系の脂肪酸はn-6系に相互変換することはできないのです。

さて、これらの必須脂肪酸は体内でどのような働きをするのでしょうか?これらの必須脂肪酸は体の中で、エイコサノイド(エイコサノイドの項参照)としての生理機能やそれ以外にも特殊な生理機能を持ちます。また、n-6系とn-3系ではそれぞれ異なった働きをします。そのため、どちらの系の脂肪酸をどのような割合で摂取するかによって、健康に与える影響が大きく異なってきます。日本脂質栄養学会においても、健康を維持するためのn-6系とn-3系の脂肪酸の食事からの摂取割合について、研究者たちによって検討されつつあります。


エイコサノイド eicosanoids

必須脂肪酸の1つであるアラキドン酸は細胞膜リン脂質の構成成分であり、細胞が刺激を受けると必須脂肪酸は膜から離れ、さまざまな生理的活性物質を生成します。また、n-3系であるEPAからも同様の生理的活性物質が生成され、これらを一括してエイコサノイドといいます。エイコサノイドには代表的なものとしてプロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエンなどがあります。これらは血小板の凝集、動脈壁や気管支の収縮、弛緩、血液の粘度などに対してさまざまな調節を行います。


欧米型ガン

日本人のガンといえば、ひと時代前は胃ガンでした。ところが、胃ガンによる死亡は1960年頃から減少傾向を示し、現在、男性では肺ガンに1位の座を奪われるほどになっています。この原因には医療技術の進歩もありますが、食生活をはじめとする日本人の生活様式の変化が考えられます。とりわけ、冷蔵庫が普及し、塩蔵品や干物などの塩辛い食品を食べなくなったことが大きな原因の一つとして挙げられます。

一方、胃ガンによる死亡が減ってきたとはいえ、日本人のガン全体の死亡数、死亡率は増加の一途をたどっています。なかでも、膵臓、乳房、大腸、前立腺ガンなどの増加が目立ちます。これらのガンは食事の急速な欧米化に伴い増加傾向にあるため、欧米型ガンとよんでいます。欧米型ガンの原因としては、肉、乳製品の摂取による動物性たんぱく質や脂肪の摂取量の増加、米離れによるでんぷん性食品の摂取量の減少などが挙げられます。特に、脂肪摂取量は1950年にはわずか18gであったのが、1998年には約60gにも増加していますが、このような脂肪の摂取量の増加と欧米型ガンとの間には深い関係があると考えられています。


第六次改定日本人の栄養所要量

日本人の栄養所要量は、国民の健康の維持・増進あるいは生活習慣病予防のために、標準となるエネルギーおよび栄養素の摂取量について示したものです。日本人の体位や疾病構造、生活環境の変化に合わせ、最近では5年ごとに改定が行われてきています。第六次改定日本人の栄養所要量は平成12年(2000年)4月から向こう5年間使用されるものです。


P/S比

Pは多価不飽和脂肪酸(Polyunsaturated fatty acids)、Sは飽和脂肪酸(Saturated fatty acids)の略で、P/S比とは多価不飽和脂肪酸量(主にリノール酸)を飽和脂肪酸量で割ったものです。食事中のP/S比を高めると血清コレステロールを低下させ、低くすると血清コレステロールを増加させることから、食事中の油脂の質をあらわすための指標として用いられてきました。しかし、脂質栄養の研究が進むにつれて、Pのなかでも健康に対して異なった影響を及ぼすさまざまな脂肪酸があることがわかり(n-6系とn-3系脂肪酸の項参照)、リノール酸だけをPの代表としてあらわすことができなくなってしまったこと、また、血中脂質レベルを調整することだけで、簡単に心疾患や脳血管疾患発症の軽減をはかることはできない、などといったことが明らかとなってきたのです。以上のような理由から、最近ではこの指標はあまり使用されなくなっています。


グリーンランド先住民とデンマーク人の疫学

デンマークのJ. Dyerbergらは伝統的な生活をしているグリーンランド人(グリーンランド先住民)の食生活と健康について長年疫学調査(健康状態などについて地域に生活をしている多数住民を対象とした調査研究のこと)を行ってきました。その結果、伝統的な生活をしているグリーンランド人には心筋梗塞などの血栓性疾患が、欧米白人に比べて非常に少ないことが明らかとなりました。食事との関連を調べてみると、伝統的な生活をしているグリーンランド人では魚やアザラシから摂取されるEPAやDHAの摂取量が多かったのです。血中EPAとDHA濃度が欧米白人に比べてはるかに高く、さらに、血小板凝集能が著しく低く、出血時間が延長していたことも認められました。

EPAから変換された生理的活性物質エイコサノイドは、アラキドン酸から変換されたものに比べて血小板凝集作用が弱く、その結果、EPAを多く摂取している伝統的な生活をしているグリーンランド人では体内で血液の固まる頻度が低くなり、血栓性疾患を引き起こす確率も低くなるわけです。これらの調査研究から、伝統的な生活をしているグリーンランド人で血栓性疾患が低い理由は、遺伝的なものでなく、食事に起因していることが明らかとなったのです。


脳血液関門

通常、体のあらゆる組織細胞は必要な物質を外から取り入れ、不要な物質を内から排泄しています。脳においても、他の組織同様物質の出入りがおこなわれていますが、他の組織に比べて非常に限られた物質しか脳の細胞に入ることができません。このようなシステムを脳血液関門といいます。