脂質栄養学のすすめ
脂質栄養に関する知識を食生活に取り入れる工夫を!
麻布大学名誉教授 守口 徹(日本脂質栄養学会理事長、2020年~)
かつての動物性脂質を控えて,植物性脂質を積極的に摂取しようと言う栄養指導も歴史上の出来事になり,今や飽和脂肪酸,一価不飽和脂肪酸(オメガ9系脂肪酸),多価不飽和脂肪酸酸(オメガ6系脂肪酸とオメガ3系脂肪酸)の4種類の脂肪酸をうまく使い分けて,栄養指導が行なわれるようになってきました. エネルギー産生栄養素のひとつである脂質は,他の炭水化物やタンパク質と異なり,消化・吸収によってこれら4種類の脂肪酸は変化することはありません. したがって,食事の際に何をどのくらい摂取しているか?自身で見極めることができるので,食生活への実践による効果が期待される栄養素といえるでしょう.
日本脂質栄養学会では,設立から,食生活における脂質栄養の重要性,特にオメガ3系脂肪酸の摂取が,心疾患やアレルギー症状,皮膚障害ならびに精神・神経症状など,多くの疾患や身体の不調を予防するとして,基礎研究を通じて明らかにしてきました. しかし,これまで積み上げてきた業績は,学会会員だけでなく,一般の方々の日常生活,食生活に反映され,実際にヒトの健康維持に役立ってこそ,脂質研究の意義があります.
近年の脂質栄養領域での研究展開は,分析などの基礎から,動物実験による検証,ヒト臨床での疫学,介入試験,予防医学に関する応用と様々ですが,これら全てが関連し合っています. 日本脂質栄養学会では,2020年から,脂質領域を探索の場としようとしている新たな研究者や脂質分析の基礎から,動物実験などの前臨床,ヒト臨床・介入,疫学などの分野を超えた探究に挑戦する研究者に向けて,「研究相談制度」を開始します. これは,これまでの研究経験の有無にこだわらず,新たな分野の研究展開を志す会員を対象に,各分野の研究経験者のアドバイスを無料で受けられる制度です. さらに,一般の方の脂質栄養の理解をより深めるために,ご希望により学会から講師を派遣して,わかりやすく脂質栄養について解説する「講師派遣制度」も設けることにしました. 日頃の食生活での脂質に関するギモンを問いかけて頂ければと思います.
これまで学会会員が第一線で行なってきた研究活動に「研究相談制度」を用いて,研究領域をさらに充実させるとともに,「講師派遣制度」を導入して,一般の方々へ広く脂質栄養の理解を広げたいと考えています. 新たなステージで活性化を始めた日本脂質学会にご期待頂くと共に,脂質栄養学の重要性と学会の活動にご理解頂いた皆さまに本学会の入会と年1回の学術大会,市民公開講座にご参加頂きたいと思っております.(2020年3月)