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オメガ博士による最新論文紹介

「いつ食べるか」が大事?
~不飽和脂肪酸の摂取による血糖コントロールの改善効果~

オメガ博士

健康維持や増進のために「何を食べるか」が重要であることは言うまでもありませんが、「いつ食べるか」はどのくらい意識しているでしょうか?私たちの体は朝と夜で代謝に差があることが栄養学の発展によって明らかになっていますが、これは脂質栄養についても当てはまります。

不飽和脂肪酸(USFA)の摂取はインスリン感受性や血糖コントロールに有益であることが分かってきています。USFAは一価不飽和脂肪酸(MUFA)と多価不飽和脂肪酸(PUFA)に大別することができます。代表的なMUFAはオレイン酸で、オリーブ油はこのオレイン酸が多い油です。PUFAは植物油や魚油で多く含まれる脂肪酸で、オメガ6系はリノール酸、オメガ3系は魚油に多いEPAやDHA、アマニ油に多いα-リノレン酸が代表的です。

MUFAやPUFAによるインスリン感受性や血糖コントロールに対しての有益な効果をもたらすメカニズムには不明な点が多いですが、近年は腸内細菌が関与することを示す研究が多く報告されており、2型糖尿病の病態メカニズムにおいて重要な役割を果たすことも認められてきています。さらに腸内細菌もまた概日リズム**を示すことが分かっており、Reitmaierらの研究から2型糖尿病患者の腸内細菌の構成と機能の概日リズムが乱れていることが判明しました1)。またXieらは早期のエネルギー摂取(15:00以前)が腸内細菌叢の多様性を向上させることを報告しています2)

今回紹介する研究は、糖尿病予備群の被験者にMUFA豊富食またはPUFA豊富食を昼または夜に摂取してもらい、USFAの種類と摂取のタイミングの違いがインスリン感受性に対してどのように影響するかを調べたものです。

不飽和脂肪酸の摂取のタイミングが腸内細菌叢-胆汁酸軸を介して
インスリン感受性を改善する:ランダム化比較試験

70名の糖尿病予備群に該当する被験者(平均年齢57歳)を対象に、食事摂取のタイミング(昼食または夕食)と食事性USFAの違い(MUFA豊富食またはPUFA豊富食)が血糖代謝に及ぼす影響を調べ、試験終了後に60名の被験者から糞便サンプルを回収して546種類の糞便代謝物と腸内細菌叢を解析しました。その結果、MUFAやPUFAの種類に関わらず、昼食時のUSFA摂取は夕食時と比較して食後インスリン値および血清飽和脂肪酸レベルを有意に低下させ、インスリン感受性の指標であるGutt指数およびStumvoll指数を有意に改善させました。

また昼食時に摂取した被験者は夕食時と比べて腸内細菌叢の豊富さが有意に増加し、腸内細菌の構成にも両群間に差が認められました。すなわち、昼食時に摂取した被験者の腸内細菌叢構成の変化は、糖尿病でみられる様々な糖質代謝の変化やインスリン抵抗性***に影響を及ぼす飽和脂肪酸の生合成低下を示唆させるものでした。糞便代謝物を解析した結果、食後インスリン値、インスリン感受性、食後血糖値、BMIおよび体脂肪率に関係する代謝物が、USFAの種類よりもUSFA摂取のタイミングの違いにおいて有意な相関を示しました。また腸内細菌叢の活性指標である二次胆汁酸/一次胆汁酸比(LCA/CDCA)は、昼食時摂取の被験者において夕食時よりもLCA/CDCAを増加させる傾向が示されました。一方、摂取するUSFAの種類はこの比率に影響を及ぼしませんでした。

最後に、マウスに対して糞便微生物の移植を実施し、USFA摂取のタイミングによる腸内細菌叢の差異形成とインスリン感受性および血清飽和脂肪酸の変化との因果関係を検証しました。その結果、摂取したUSFAの種類に関係なく、昼食時に摂取した被験者の腸内細菌を移植されたマウスは夕食時に比べてインスリン抵抗性が有意に改善し(図)、血清飽和脂肪酸レベルも低下しました。

糞便微生物を移植したマウスの耐糖能試験における血糖値の変化

以上より、糖尿病予備群被験者のインスリン感受性の改善および血清飽和脂肪酸レベルの低下は、摂取したUSFAの種類ではなく、早いタイミングで摂取することによってもたらされ、腸内細菌叢と胆汁酸代謝が有益な効果を引き起こす主要因であることが明らかになりました。

Timing of unsaturated fat intake improves insulin sensitivity via the gut microbiota-bile acid axis: a randomized controlled trial
(Wei, C. et al., Nature Communications, 16, 4211, 2025)

オメガ博士

胆汁酸は胆のうから分泌される胆汁を構成する成分で、肝臓でコレステロールから合成され、脂肪の消化・吸収を助けます。分泌された胆汁酸は小腸から再び体内に吸収されて肝臓に戻り、胆汁酸として再利用されますが、中には腸から吸収されずに腸内細菌によって異なる物質に変換されるものがあります。肝臓で合成された胆汁酸を一次胆汁酸と呼び、一次胆汁酸が腸内細菌によって変換されたものを二次胆汁酸といいます。本研究は、USFA摂取の早いタイミングが腸内細菌と胆汁酸の構成を良好なインスリン感受性や血清不飽和脂肪酸レベルになるように変化させたことを明らかにしたものです。

さらに筆者たちは、夜の摂取は脂質吸収と炎症反応の増加に寄与し、インスリン感受性を低下させる可能性についても言及しています。以前、当コーナーではオメガ3脂肪酸を強化した魚肉ソーセージを食べる効果的なタイミングについて検証した研究を紹介しましたが、その研究でも朝食べた方が夜よりも血清中性脂肪が低下する結果となりました(魚油をいつ摂取すると、より体に良い?~時間栄養学と効果的な魚油摂取~)。食事はお日様が出ているうちにしっかり摂り、夜は控えめに済ますスタイルが良いのかもしれません。

インスリン感受性
血糖値低下に働くホルモンの一つであるインスリンが、体内でどの程度効率よく作用するかを示す指標のこと。インスリン感受性が高い人は、少量のインスリンで血糖を効果的に下げることができることから、糖尿病や動脈硬化のリスクも低い傾向にある。

**概日リズム
睡眠・覚醒、体温、心拍、血圧、ホルモンの分泌などといった生理現象が24時間の周期で変動する生体リズムのこと。サーカディアンリズムともいう。

***インスリン抵抗性
インスリンが分泌されても、その作用が十分に発揮されにくい状態のこと。インスリン抵抗性の状態が続くと、すい臓は血糖を下げるためにより多くのインスリンを分泌し、やがて分泌機能が疲へいし、2型糖尿病の発症につながる。

参考文献
1)Reitmeier, S. et al., Cell Host & Microbe, 28, 258–272.e256, 2020.
2)Xie, Z. B. et al., Nature Communications, 13, 1003, 2022.

2025年11月4日
(弘前大学:樋口 智之)

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