日本脂質栄養学会

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HOME市民の皆さまへ産後うつとオメガ3脂肪酸

オメガ博士による最新論文紹介

産後うつには、オメガ3脂肪酸以外にもオメガ6脂肪酸が関係している!

オメガ博士

産後うつは全出産女性の10~15%に生じる一般的な精神疾患であり、母体のみならず子どもや家族全体の健康にも大きな影響を与えます。その予防策の一つとしてオメガ3脂肪酸の摂取が注目されており、以前、オメガ3が産後うつリスクの軽減と関連することを紹介いたしました。しかし、主な供給源である魚資源は減少傾向にあり、持続可能性の観点から課題があります。一方、オメガ6は代謝経路においてオメガ3と拮抗するため、その摂取を抑えることが産後うつ予防に有効である可能性があります。

従来の研究ではオメガ3、オメガ6、あるいはその比率を個別に検討することが多く、両者の相互作用を同時に解析した研究は限られていました。そこで本研究では、妊娠前から妊娠初期にかけてのオメガ6およびオメガ3の摂取量と産後うつとの関連を、大規模出生コホートを用いて検討しました。

妊娠前後期におけるオメガ6およびオメガ3摂取パターンと産後うつ:全国出生コホート研究 ― エコチル調査

本研究は、全国15地域から参加した92,595人の母親を対象に、妊娠前から妊娠初期にかけてのオメガ6およびオメガ3脂肪酸の摂取と産後うつとの関連を検討した。

その結果を図に示す。横軸にオメガ6摂取量、縦軸にオメガ3摂取量をとり、産後うつの有病率を色分けした等高線図として示した。赤色は高い有病率、青色は低い有病率を示している。図からは、オメガ6摂取が多い領域ほど産後うつの有病率が高くなる一方、オメガ6摂取量が少ない領域では有病率が低下する傾向が明瞭に認められた。また、オメガ3については摂取量の増加に伴って有病率は低下したが、2 g/日を超えると効果は頭打ちとなり、追加的な低下はみられなかった。

産後抑うつの調整有病率

この結果から、オメガ3摂取の増加による効果には限界がある一方で、オメガ6摂取を減らすことが産後うつの予防に一貫して有効である可能性が示された。したがって、妊娠前後の母親のメンタルヘルスを守るためには、オメガ3の積極的摂取だけでなく、オメガ6の摂取抑制にも注目することが重要であると考えられる。

Periconceptional omega-6 and omega-3 polyunsaturated fatty acid intake plane and postpartum depression: a nationwide birth cohort - the Japan Environment and Children's Study.
(Matsumura K, Hamazaki K, Tsuchida A; Japan Environment and Children's Study (JECS) Group; Inadera H. Am J Epidemiol. 2024, Oct 17:kwae403. Online ahead of print.)

オメガ博士

本研究は、これまで個別に検討されがちだったオメガ6とオメガ3を同時に解析し、その相互作用と絶対量を考慮した点に新規性があります。特に、オメガ6摂取の抑制が産後うつ予防に寄与する可能性を明確に示したことは重要です。魚やオメガ3の摂取増加だけを推奨するのではなく、食生活全体のバランスを踏まえて「オメガ6を減らす」という視点を取り入れることが、持続可能性や実行可能性の観点からも有効だと考えます。今後は、特定の脂肪酸種(DHA, EPA, リノール酸など)ごとの影響や、介入研究による検証が望まれるところです。

2025年10月2日
(浜崎 景:群馬大学)

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