日本脂質栄養学会

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HOME市民の皆さまへ魚油と睡眠障害

オメガ博士による最新論文紹介

魚油を摂取すると2型糖尿病患者の睡眠障害が改善する

オメガ博士

糖尿病は、世界全体で患者数が多い疾患で、2021年の全世界の患者数は約5億3,700万人、2045年には7億8,300万人まで増加すると推定されています。そのうち、2型糖尿病(T2D)患者の42~76.8%が睡眠障害を併発していることから、この合併症の改善方法を見つけることは喫緊の課題です。睡眠障害の原因の一つは、私たちの生体機能を司る約24時間周期のリズム(概日リズム)が崩れることです。リズムが崩れることで、「夜になると眠くなって眠る、睡眠中ぐっすり眠る、朝になると目が醒める」という健康的な睡眠が妨げられ、日中の生活の質にも影響します。そこで著者らは、人を対象とした2つの研究と培養細胞を用いた1つの研究を行って、魚油の摂取がT2D患者の概日リズムを正常化させることで睡眠の質を改善することができるかどうか調べました。

海洋性n-3系多価不飽和脂肪酸は、2型糖尿病患者の中枢概日リズムの調節によって睡眠障害の進行を遅らせる

魚油n-3系多価不飽和脂肪酸(PUFA)の睡眠促進における役割についてはこれまでにも提唱されているが、2型糖尿病(T2D)患者における睡眠障害に対する効果や、その背景にある分子メカニズムについてはほとんどわかっていない。著者らは、まずT2D患者27,549名を対象としたコホート研究を実施し、習慣的な魚油の摂取と睡眠の質の改善の間に有意な相関性があることを明らかにした。次にT2D患者を対象として実施した二重盲検ランダム化介入研究では、質問票による調査と血液検査を行い、魚油サプリメントを14か月摂取すると睡眠の質が改善し、ClockBmal1およびPer2といった概日時間遺伝子の発現が上昇した。また、インスリン抵抗性を示す視床下部神経培養細胞を用いたin vitro実験において、DHAおよびEPAが時間遺伝子のリズム変動を改善することが明らかとなった。またこれは、n-3PUFAが概日リズムを調節する受容体の一つであるRORα受容体をターゲットとして概日時間変動を調節し、BMAL1の核移行を促進することによるものであることがわかった。著者らの研究は、T2D患者の睡眠の質を改善させる方法として、魚油n-3PUFAの食介入の可能性を示している。

Marine n-3 polyunsaturated fatty acids slow sleep impairment progression by regulating central circadian rhythms in type 2 diabetes.
(Zhuang P, et al., Cell Reports Medicine 6, 102128, 2025)

オメガ博士

魚油n-3PUFA(DHAとEPA)の摂取は、T2D患者の睡眠の質を高めることが明らかとなりました。またその背景には、中枢概日リズムを正常化させるn-3PUFAの作用があることが分かりました。しかし、n-3PUFAによるBMAL1の核移行のメカニズムについては未解明です。治療薬としての利用のために、今後の研究が期待されます。

BMAL1(Brain and Muscle ARNT-Like 1) : 脂肪の合成に関わるタンパク質の一種。哺乳類の概日リズムを形成する上で重要な役割をもつ。BMAL1発現の低下と肥満、インスリン抵抗性、心血管疾患リスクとの関連が指摘されている。

2025年9月11日
(内藤由紀子:北里大学)

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