日本脂質栄養学会

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オメガ博士による最新論文紹介

前立腺癌と診断されたら、まずは食事を見直そう!

オメガ博士

以前は欧米に比べ日本人には少なかった前立腺癌が、2000年ごろから急速に増えています。PSA(前立腺特異抗原)の数値を血液検査で測定できることから、PSA検査が健康診断などで広く行われるようになり、PSAが高い場合は生検(細胞診)を行うという流れが一般的になり、早期発見が容易になったと言われています。

前立腺癌は、比較的増殖が遅いと言われているものが多く、悪性度の指標のスコア(グリソンスコア)が低い場合、診断を受けてから直ちに摘出手術や放射線療法などの治療を開始せず、定期的にPSAや細胞診などの観察を続けるという判断が下され、患者本人の意向も踏まえて治療法が決定されます。この治療開始前の観察をActive surveillance(AS)と言います。AS中の患者が、どのような食事をするのが前立腺がんの悪化を遅らせるのに有効であるかを調べた研究は、過去にいくつか報告されており、野菜の豊富な食事、地中海食などでは効果が見られなかったという報告があります1)、2)

今回ご紹介するのは2024年にJournal of Clinical Oncologyに報告された論文で、AS期間中の患者を対象に、高オメガ3・低オメガ6脂肪酸摂取となるような食事指導に加えて魚油サプリメントを摂取させる1年間のRCTの介入試験を行ったというものです。その結果、高オメガ3・低オメガ6の食事と魚油サプリメント併用群で、前立腺癌の細胞増殖、悪性化の指標であるKi-67が、有意に低下したというものです。

今は、出来るだけ手術などしないで、スコアの悪化を抑えつつ、通常の生活を続けたいと思う人が増えており、様々な治療法が開発されている前立腺癌ですが、食事療法と魚油サプリメントの併用でそれが実現できるのであればば、やってみる価値はありますね。

AS期間中の前立腺癌男性に対する魚油を用いた高オメガ3、低オメガ6の食事療法
CAPFISH-3ランダム化臨床試験

前立腺癌の進行を抑制するための食事介入の効果を評価することを目的として、単一施設における無作為化、オープンラベル、二群比較試験を実施しました。参加者は、生検で確認された前立腺癌のグリソンスコア3+4以下、グレードグループ1または2に該当しASを選択している前立腺癌患者100人(試験を完了した80名のうち90%が白人)です。

介入は、月に1回のプライベートカウンセリングを栄養士から受け、脂質の摂取をトータル摂取カロリーの30%以下とし、オメガ6を多く含む揚げ物、加工度の高い食品、チップスなどをひかえ、サケやツナなどのオメガ3を多く含む食品を摂取し、オメガ6とオメガ3の摂取比率が4:1以下となることを目標としました。加えて、DHAとEPAのフィッシュオイルカプセルを1日当たり2.2g摂取しました。参加者は食事介入に対して高い遵守率を示し、試験は良好に耐容されました。

試験群では開始時から3か月毎に対照群では6か月毎に3日間分の食事記録を提出してもらい、さらに、開始時、6か月、12か月後の、空腹時採血を実施し、血漿中の脂質、テストステロン、PSAを測定しました。体重、身長、その他の部位の計測も併せて実施しました。細胞生検は、画像融合デバイスを使用して同じ部位からの生検を実施、Ki-67陽性細胞数の変化を測定しました。

その結果、食事・魚油サプリメントの介入群では、赤血球の膜を構成するDHA,EPA(オメガ3)の比率が経時的に上昇し、アラキドン酸やリノール酸(オメガ6)の比率が低下しました。対照群ではともに変化がなかったことより、食事・魚油サプリメントの摂取効果は血液指標に反映されている事が確認されました。前立腺がんの増殖性の指標として今回の試験の主要評価項目としたKi-67については、介入群で約15%減少(1.34%から1.14%)、対照群で約24%増加(1.23%から1.52%)し、有効性が認められました(統計的有意性: P = 0.043)(図)。さらに、Ki-67以外の病理学的特徴やPSAレベルに差はありませんでした(病理学的特徴: グレードグループの変化に有意差なし(P = 0.499)。

前立腺がんの増殖性の指標となるKi-67 の介入による変化

High Omega-3, Low Omega-6 Diet With Fish Oil for Men With Prostate Cancer on Active Surveillance: The CAPFISH-3 Randomized Clinical Trial
(Aronson WJ, Grogan T, Liang P, Jardack P, Liddell AR, Perez C, Elashoff D, Said J, Cohen P, Marks LS, Henning SM. Journal of Clinical Oncology., 43: 800-809, 2024)

オメガ博士

この論文の結果では、前立腺癌と診断されているものの、積極的な治療を実施していない状態の100名が、オメガ3を増やしオメガ6を減らす食事療法をした結果、前立腺癌にどういう影響を与えるのかを検討していました。その指標として用いたKi-67は、Kammerer-Jacquetらの研究では、5%を超えると前立腺癌特異的死亡の予測因子となることが示されており3)、生存率や転移の予測因子として重要視されているものです。

今回得られた結果は、将来「食事とライフスタイルの介入による前立腺がんの予防・制御」を可能にする方法の確立のために有用なデータを提供していると思います。この試験期間では、PSAやグリソンスコアの変化は両群に差がなかったという結果ですが、オメガ6をさらに低減させる条件や、試験期間を延長するなどの検討が行われ、効果がより確実になることを期待しています。

RCT : ランダム化比較試験、無作為化比較試験ともいう。一定条件に合致する被験者を集め、試験群と対照群とに無作為に割り付けて行う試験の事。

参考文献
1)Parsons JK, Zahrieh D, Mohler JL, et al. JAMA 323:140-148, 2020.
2)Schenk JM, Liu M, Neuhouser ML, et al. Nutr Cancer 75:618-626, 2023
3)Kammerer-Jacquet SF, Ahmad A, Moller H, et al. Mod Pathol 32:1303-1309, 2019

2025年7月1日
((株)吉野家ホールディングス R&Dエグゼクティブフェロー 辻 智子)

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