オメガ博士による最新論文紹介
自閉症スペクトラム障害におけるオメガ3脂肪酸およびビタミンDの効果

近年、日本では発達障害と総称される対象(自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、学習障害など)の診断件数が増加しています。診断基準の改定や認知の向上に伴い、以前は見落とされがちだったケースも診断されるようになったことが背景にあります。
今回ご紹介する系統的レビューの論文では、最新のエビデンスをもとにASDに対する栄養補充療法としてのオメガ3脂肪酸とビタミンDの効果を検証しています。今後の治療戦略に大きな示唆を与えるものとなっています。
自閉症スペクトラム障害(ASD)におけるオメガ3多価不飽和脂肪酸
および/またはビタミンD:系統的レビュー
文献紹介欄
ASDは、社会的コミュニケーションの障害や反復行動などの中核症状が特徴ですが、従来の治療法では十分な改善が得られにくいという課題があります。栄養状態、特にオメガ3脂肪酸と、神経や免疫の調整に関与するビタミンDの不足がASDと関連する可能性が指摘され、近年、これらの栄養素を補充することで症状の改善が期待されてきました。本論文の目的は、過去20年以上にわたるランダム化比較試験(RCT)を対象に、オメガ3単独、ビタミンD単独、またはその併用補充がASDの中核症状(社会性、行動、言語機能)やバイオマーカーに与える影響を統合的に評価することにあります。
オメガ3単独補充の効果
ASDの一部評価尺度での改善傾向は認められるものの、全体として中核症状の改善に対するエビデンスは十分でなく、効果は弱いとの結論に至っています。
ビタミンD単独補充の効果
特に行動機能(例:過敏性、不適切な行動、社会的引きこもりなど)の改善において統計的に意味のある効果が報告されました。
併用補充の可能性
複数の研究では、オメガ-3とビタミンDの併用補充により、社会性および行動面での改善が顕著であることが示唆されています。これにより、両者の相乗効果が期待できる可能性が浮上しており、臨床への応用が今後の研究テーマとして注目されます。
臨床的意義と今後の展望
脂質栄養学の視点からは、オメガ3脂肪酸の神経細胞膜への影響と、ビタミンDの神経伝達や免疫調整作用が、ASDの症状改善に寄与している可能性が示唆され、今後の研究によるメカニズム解明が期待されます。
Omega-3 polyunsaturated fatty acids and/or vitamin D in autism spectrum disorders: a systematic review
(Jiang et al., Front Psychiatry. 2023 Aug 16;14:1238973.)

本論文は、栄養学と神経科学の両方の専門領域の観点からASDという複雑な疾患に挑む試みとして、大変意義深いものです。この知見を踏まえ、臨床現場での応用やさらなる研究が、今後さらに発展していくものと思います。
2025年4月16日
(押田 恭一:ビューティー&ウェルネス専門職大学)