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オメガ博士による最新論文紹介
HOME1分子に2つの機能性化合物 その2

オメガ博士による最新論文紹介

「一粒で二度おいしい」もとい「1分子に2つの機能性化合物」その2

オメガ博士

クリルオイル(オキアミ由来の脂質)には、リン脂質が豊富に含まれています。このリン脂質は、実は特徴的でエイコサペンタエン酸(C20:5)が結合しているホスファチジルコリンが主成分です。つまり、クリル由来のリン脂質には、エイコサペンタエン酸とコリンという2つの機能性分子が1分子の中に組み込まれています。

今回は、このような機能性リン脂質である、クリルオイル(エイコサペンタエン酸結合型ホスファチジルコリン)のスポーツ競技への有用性に触れたいと思います。

トライアスリートにおける血清コリンおよびコリン代謝産物に対するクリルオイルとレース距離の影響:フィールド研究

25歳から61歳までの女性12名と男性35名の合計47名のトライアスリートが、スプリントディスタンス(短距離)、オリンピックディスタンス(中距離)、アイアンマンディスタンス(長距離)への参加者に対して、24人のアスリートをクリルオイル摂取群に無作為に割り付け、レースの5週間前から毎日4gのクリルオイルを摂取してもらいました。他方、23人のアスリートをプラセボ群に無作為に割り付け、毎日4gの混合植物油を摂取してもらいました。

血液サンプルは、レース前とレース終了直後に採取され、血清コリンおよびその代謝産物(ベタイン、ホスファチジルコリンなど)の変化を測定しました。

クリルオイル摂取群では、血清コリン濃度の低下が抑えられた。代謝産物(特にホスファチジルコリン)の減少も緩やかで、コリンの恒常性が維持される可能性が示唆されました。これは、クリルオイルのリン脂質結合型コリンが吸収されやすく、持久運動時のコリン消費を補う可能性があることを示しています。

レースの距離による影響としては、長距離(アイアンマン)ほど血清コリンの減少が顕著 であり、特にプラセボ群ではレース後に急激な低下が観察されました。クリルオイル摂取群では、距離が長くなるほど血清コリンの減少が抑制される傾向がみられました。これは、長時間の持久運動がコリン代謝に大きく影響することを示唆しており、長距離レースのアスリートほどコリン補給の重要性が増す可能性があります。

パフォーマンスへの影響としては、レースタイムや主観的疲労感に対する明確な影響は見られませんでしたが、長時間の運動後の回復においてコリン代謝の安定が役立つ可能性が示されました。

Effects of Krill Oil and Race Distance on Serum Choline and Choline Metabolites in Triathletes: A Field Study
(Andreas B Storsve, Line Johnsen, Christoffer Nyborg, Jørgen Melau, Jonny Hisdal, Lena Burri: Front Nutr., 7:133., 2020, doi: 10.3389/fnut.2020.00133. eCollection 2020.)

オメガ博士

コリンは、細胞膜の構成成分であるため、運動による筋損傷が起きた場合、それを修復するための建築資材として補給をしていく必要があります。他方、EPAにも抗炎症などの観点から筋損傷時には重要な役割を果たすことが示唆されています。

つまり、運動パフォーマンスやその回復過程において、コリンもEPAも機能を発揮することが想定されます。この2つの機能性化合物が1つの分子に組み込まれているクリルオイルが今後のスポーツ栄養に寄与する可能性があります。

ただ、リン脂質は、本質的な消化管からの吸収メカニズムが未だ解明されていないことや日本におけるクリルオイルでのヒトに対する研究が決して多くないことから、今後の展開が期待されます。

2025年3月21日
(大久保 剛:仙台白百合女子大学)

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