脂質栄養学のすすめ 1

油脂(あぶら)の栄養革命が進行中なのは、ご存じですか?

金城学院大学薬学部・奥山 治美(前会長、1992年〜1998年)

奥山治美

長い間、コレステロールが動脈硬化・心疾患の元凶であると考えられてきました。そして、動物性脂肪がコレステロール値を上げ高リノール酸油がそれを下げるという観察から、バターよりマーガリンを!とか、高リノール酸油は善玉!というような栄養指導が続けられてきたのです。

ところがこのような栄養学には、意外なところに落とし穴がありました。実年以上の人では、「コレステロール値が高いほどガン死亡率が低く、長生きである」ことがわかってきたのです。そして、リノール酸のコレステロール低下作用は、1週間というような短期的な効果であって、長期的には動物性脂肪と差がありません。

そればかりではなく、リノール酸の摂取が多くてα-リノレン酸群が少ないと、組織がアラキドン酸で満たされます。それが動脈硬化・心疾患の他、アレルギー過敏症や欧米型ガンの主要な危険因子であったのす。

新しい油脂の栄養学では油脂の主成分である脂肪酸を体内での代謝に基づいて分類します。動物性脂肪や高オレイン酸油の主成分である飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸の群、種子や多くの種子油に多いリノール酸群、野菜類、魚介類、紫蘇油、亜麻仁油、魚油などに多いα-リノレン酸の群です。α-リノレン酸群はリノール酸群の作用を競合的に抑え、リノール酸摂りすぎの害を抑えるのです。

わが国ではアレルギー過敏症が増え、乳幼児の3人に1人がアトピー性であると診断されているような、異常な社会環境となりました。「リノール酸アラキドン酸炎症メディエーター組織での反応」の亢進が、アレルギー過敏症を作っているのです。抗アレルギー薬の多くが、この反応のどこかを抑えることによって効果を発揮していることからも、この因果関係はわかっていただけるでしょう。α-リノレン酸群はこれを抑えるのです。

いつの時代でも、「今時の若者は・・」という表現がよく使われました。しかし昨今の「若者のきれやすさ」は、アメリカに似てきたようにはみえませんか?二世代までα-リノレン酸欠乏にすると、抑制力が劣り不安誘発の多い動物となります。母親が魚離れ、野菜嫌いの食習慣だと、子供の行動パターンが変わることを示す臨床研究も増えています。魚を食べる国ほど鬱症の発症者が少ないのです。頭の働きまで、油脂栄養が深く関わっています。

遺伝子治療や臓器移植をも含めた現在の医療の中で、油脂栄養の方向転換ほど重要な課題はありません。油脂栄養学の改革に取り組んでいる日本脂質栄養学会にご参加下さい。