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脂質栄養学のすすめ 2

脂質栄養学への招待

富山医科薬科大学・浜崎 智仁(前・脂質栄養学会理事長、1999年〜2010年)

浜崎智仁

病気になるとしばしば薬を服用します。しかし毎日1g以上の薬を服用することは稀で、一生全く同じ薬を続けることもまずありません。どの薬も多くは一日で代謝されて体外に排泄されますが、油はこれらの点に関し薬と正反対です。断食しない限り,油の摂取を一日でも止めることはできないし,いくら油ものを食べないと言っても,ご飯を食べるだけで,あるいはパンを食べるだけで油は入ります。入院して絶食していても点滴で入ることがあります。そこで、生まれてから死ぬまで油の摂取は確実に続くことになります。一日の油の摂取量は薬のようにmg単位ではなく,数十g単位です。エネルギーに変換され体外に水と二酸化炭素になり排泄されるものもありますが,体内での半減期が数週間を越える脂肪酸もあります。この脂肪酸が単なるエネルギー源で,量だけが問題であれば話は簡単です。ところがその摂取量を考慮すれば実は薬以上の生理活性があり,しかも薬でもなかなか突破できない脳血液関門ですら通過する脂肪酸があるのです。油の摂取で一体どんな間違いを犯しているかを認識しないことは,副作用が現に出ている薬を平気で毎日服用し続けることと本質的には変わりません。

脂質栄養学は20世紀最後の20年間で大変貌を遂げました。魚油による心疾患の予防・治療研究からn-3系脂肪酸の研究が進み,現在では乳児の栄養からガン、アレルギー、精神疾患や痴呆を含むほとんど全ての疾患にその研究範囲が及び、知能や行動科学も研究対象として組み込まれました。これらの研究が進む過程で、n-3系に拮抗し、現在大過剰に消費されているn-6系脂肪酸(リノール酸)の害が指摘されるようになり、いかにn-6系脂肪酸を減らすかが、現在大問題となっています。

日本脂質栄養学会では、これらの課題についての研究発表・啓蒙活動等を年一回の大会(9月上旬)および出版活動(学会誌「脂質栄養」及び「脂質栄養学シリーズ」)を通して行い、脂質栄養の向上をはかることにより社会に貢献できればと考えております。本学会構成員の専門分野は非常に多岐にわたり、それが本学会の一つの特徴になっております。この機会に、脂質栄養学の重要性をご理解いただき、本学会に参加下さるようお願いいたします。 (2011年1月)