オメガ博士による最新論文紹介
妊婦さんの魚食・オメガ3脂肪酸摂取と乳幼児の神経発達
オメガ3脂肪酸は神経や脳の重要な構成成分であり、特に胎児形成の時には多く必要とされます1)。動物実験から、十分なオメガ3 が摂取されない場合、母ラットは自分の脳を犠牲にしてでもオメガ3脂肪酸を胎児に供給していることがわかっています2)。魚食・オメガ3脂肪酸と神経発達の観察研究や介入研究は2000年以降数多くの報告されるようになり、特に観察研究では良い関連が見られています。そこで、エコチル調査のデータを使って、妊娠中の魚食・オメガ3脂肪酸・オメガ6脂肪酸と、神経発達との関連を調べてみました。
解析は、魚食の量で5つのグループに分け、一番少ないグループと比較してほかのグループの「神経発達の遅れ」との関連を検討しました。お子さんの神経発達の指標は、生後6 か月と1歳時点の質問票の回答から「コミュニケーション」「粗大運動」「微細運動」「問題解決」「個人・社会」といった5つの領域の神経発達の状況を点数化し、マイナス2 標準偏差以下の得点だった場合を「神経発達の遅れ」と定義しました。その結果、妊娠中の魚の摂取量は、産後6ヶ月の問題解決の遅滞のオッズ比低下との関連が認められました(図)。また、1歳における微細運動および問題解決の遅滞のオッズ比低下との関連が認められました。同様にオメガ3脂肪酸およびオメガ6脂肪酸についても、いくつかの神経発達領域に有意な関連が認められました。しかしオメガ6脂肪酸/オメガ3脂肪酸比については1歳児の問題解決において有意なオッズ比の上昇が認められました。
Maternal dietary intake of fish and polyunsaturated fatty acids and child neurodevelopment at 6 months and 1 year of age: a nationwide birth cohort-the Japan Environment and Children’s Study.
(Hamazaki K, Matsumura K, Tsuchida A, Kasamatsu H, Tanaka T, Ito M, Inadera H, Japan Environment and Children's Study Group. Am J Clin Nutr 112(5); 1295-1303, 2020)
妊娠中の魚摂取は、6ヶ月および1歳時のいくつかの神経発達領域に対して良い方向に関連しており、その要因としてはオメガ3脂肪酸およびオメガ6脂肪酸の関与が考えられました。しかしながら、オメガ6脂肪酸/オメガ3脂肪酸比については問題解決において悪い方向に関連しており、そのバランスも重要であることが示唆されました。また、今回の研究の限界としては、魚に含まれる水銀量は解析に用いられていないため、今後はリスク&ベネフィットを考慮に入れた解析が必要になってくると思います。
参考文献
1) Clandinin MT, et al. Early Hum Dev 1981; 5: 355-366
2) Levant B, et al. Biol Psychiatry 2006; 60: 987-990
2021年4月19日
(浜崎 景:富山大学)