オメガ3-食と健康に関する委員会

魚食・オメガ3脂肪酸摂取と妊婦さんのアレルギー

オメガ博士

一般的に、オメガ6脂肪酸(アラキドン酸)は炎症を惹起する方向に働くのとは対照的に、オメガ3脂肪酸はどちらかというと炎症を抑えるような方向に動いています1)。例えば、アレルギーに関与するロイコトリエンという物質がありますが、アラキドン酸から作られるロイコトリエンB4はエイコサペンタエン酸(EPA:オメガ3脂肪酸の一種)から作られるロイコトリエンB5の10〜100倍の強さがあると言われています2)。このいったような様々な機序から、オメガ3脂肪酸にはアレルギーを抑える効果があるかもしれないとされてきました。ただ実際、今までの疫学調査や介入研究の結果をみてみると、予防効果あるいは治療効果に関しては未だ一致した見解は得られていないのが現状です。そこで、日本の妊婦さんの母集団を代表するようなデータ(「子どもの健康と環境に関する全国調査(通称:エコチル調査)」)を使って、妊娠前期から過去1年間の魚食と、今までの生涯で医師に診断されたアレルギー性疾患との関連を調べてみました。

エコチル調査に参加されている妊婦さんおよそ8万人とその旦那さんおよそ4万人のデータを使って解析した結果、魚介類摂取ではアレルギー性鼻炎+花粉症、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎のリスク上昇との関連が認められました。また、オメガ3脂肪酸摂取においても、アレルギー性鼻炎+花粉症、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎でリスクの上昇との関連が認められました。旦那さんにおいても、魚介類摂取とオメガ3脂肪酸摂取において、アレルギー性鼻炎+花粉症、アトピー性皮膚炎のリスク上昇との関連が認められました。

妊娠前期から過去1年間の魚食と、今までの生涯で医師に診断されたアレルギー性鼻炎あるいは花粉症との関連

Dietary intake of fish and ω-3 polyunsaturated fatty acids and physician-diagnosed allergy in Japanese: The Japan Environment and Children’s Study.
(Hamazaki K, Tsuchida A, Takamori A, Tanaka T, Ito M, Inadera H, Japan Environment and Children's Study (JECS) Group. Nutrition. 2019 May;61:194-201.)

オメガ博士

仮説に反して、関連が出ないどころか逆にアレルギーのリスクが悪くなる方向と関連していました。その理由ははっきりしておりませんが、動物実験によりますと、オメガ3脂肪酸自体の代謝産物の中にアレルギー作用を示すものも発見されており3)、魚介類摂取の増加とともにリスクが上昇した可能性が考えられます。また、魚介類には程度の差こそあれダイオキシンが含まれており、この曝露がアレルギー発症のリスクを上昇させたのかもしれません4)。その他、“因果関係の逆転”も考えられます。すなわち、アレルギー性疾患の既往のある方が、意識して魚介類やオメガ3脂肪酸を積極的に摂取した可能性も否定できません。今後はこの関連を解明するために、介入試験等も含めて更なる研究の必要があると考えられました。

参考文献
1) Simopoulos AP, J Am Coll Nutr 2002; 21: 495-505
2) Miles EA, et al. Nutrients 2017; 9
3) Shimanaka Y, et al. Nat Med 2017; 23: 1287-97
4) Gascon M, et al. Environ Int 2013; 52: 51-65

2021年4月9日
(浜崎 景:富山大学)