オメガ3-食と健康に関する委員会

魚食・オメガ3脂肪酸摂取と妊婦さんの抑うつ

オメガ博士

妊娠期は胎児形成のためにオメガ3脂肪酸が普段よりも多く必要とされ、ドイツの妊婦を対象にした調査によると、妊娠週数および授乳月数と血中オメガ3脂肪酸との間に負の相関関係が示されています1)。2000年頃よりうつに対するオメガ3脂肪酸の研究が多くされるようになり、メタ解析(多くの研究を統合した結果)でも周産期抑うつの妊婦さんでは有意に血中オメガ3脂肪酸が減少していました2)。日本は先進国と比べると魚を多く摂取する方ですが、ただ残念なことに2006年を境に肉食が魚食を上回るようになり、その差は拡大する一方です3)(お肉が悪者と言っているわけではないのですが、お肉の中にはほとんどオメガ3脂肪酸が含まれていないという点で比較しています)。そこで、今回、日本の妊婦さんの母集団を代表するようなデータを使って妊娠期抑うつおよび産後抑うつと魚食・オメガ3脂肪酸摂取との関連を調査してみました。

データは、日本で現在行われている「子どもの健康と環境に関する全国調査(通称:エコチル調査)」のデータ(8−9万人)を使って魚食と抑うつとの関連を調べました。魚食の摂取量の少ない方から5群に分け、一番低い群と比較してのオッズ比(抑うつのなりやすさ)を調べてみました。その結果、妊娠期間中では、前期ではそれほど関連はありませんが、中後期でやや強くなり(魚を摂っている方で抑うつのなりやすさが低減)、出産1か月でも続いている感じでした。また、6ヶ月、1年後でも調べてみましたが、さらにその関連は強くなっていました(図は1年後の関連を示しております)。なお、妊婦さんの夫(およそ4万人)でも調べていますが、ほとんど関連は認められませんでした。また、オメガ3脂肪酸については、前期から産後1ヶ月までの関連は魚食ほど強くはありませんでしたが、6ヶ月では同程度、1年後では魚食よりも弱くなりました。

産後1年での魚食と抑うつとの関連

Dietary intake of fish and n-3 polyunsaturated fatty acids and risk of postpartum depression: a nationwide longitudinal study - the Japan Environment and Children's Study (JECS)
(Hamazaki K, Matsumura K, Tsuchida A, Kasamatsu H, Tanaka T, Ito M, Inadera H, Japan Environment and Children's Study (JECS) Group. Psychol Med. 2020, 50(14),2416-2424)
Dietary intake of fish and n-3 polyunsaturated fatty acids and risks of perinatal depression: The Japan Environment and Children’s Study (JECS).
(Hamazaki K, Takamori A, Tsuchida A, Kigawa M, Tanaka T, Ito M, Adachi Y, Saito S, Origasa H, Inadera H, Japan Environment and Children's Study (JECS) Group. J Psychiatr Res. 2018 Mar;98:9-16)

オメガ博士

今回の研究の限界としては、オメガ3脂肪酸では、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、α-リノレン酸など、個々の脂肪酸では区別ができていないため、それぞれの効果を分析できていません。また、魚介類摂取は一般的に健康的な食生活を反映しているため、調整しきれなかった因子(例えば、健康意識の高さなど)があるかもしれません。今後、オメガ3脂肪酸の直接的な効果を調べるには実際に投与するような介入研究が必要になってきます。

参考文献
1) Gellert S, et al. Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids 2016; 109: 22-28
2) Lin PY, et al. Biol Psychiatry 2017; 82: 560-569
3) 国民健康・栄養調査. 厚生労働省

2021年3月30日
(浜崎 景:富山大学)