オメガ博士による最新論文紹介
「一粒で二度おいしい」もとい「1分子に2つの機能性化合物」その1

クリルオイル(オキアミ由来の脂質)には、リン脂質が豊富に含まれています。このリン脂質には、エイコサペンタエン酸(オメガ3脂肪酸)とコリンという2つの機能性分子が1分子の中に組み込まれています。
オメガ3脂肪酸がと運動パフォーマンスの関係では、持久的パフォーマンスの向上、抗酸化・抗炎症反応、遅発性筋肉痛に対する有効性が予測されています。さらに、クリルオイルに含まれるコリンについても運動パフォーマンス向上が指摘されています。
そこで、2つの機能性分子を持つクリルオイルの骨格筋や神経の損傷、筋量および筋力に対して探るべく、(1)オメガ3脂肪酸の効果について(レビュー論文)、及び(2)クリルオイルのスポーツ競技への有用性について、2回シリーズでご紹介します。
筋肉の損傷と機能におけるエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)
EPAやDHAの摂取は、遅発性筋痛や筋の微細損傷を軽減する可能性が示唆されています。これは、これらの脂肪酸が筋細胞膜の安定性を向上させ、炎症性サイトカイン(TNF-α, IL-6)の放出を抑制するためと考えられます。
<炎症抑制と抗酸化作用>
EPAおよびDHAの摂取は、炎症を抑制することで筋損傷後の回復を促進することが報告されています。オメガ3系脂肪酸は、炎症性エイコサノイド(アラキドン酸由来のプロスタグランジンなど)の産生を抑え、代わりに抗炎症性のレゾルビンやプロテクチンの生成を促進することが知られています。
<筋タンパク質合成と筋力の維持>
一部の研究では、EPAやDHAが筋タンパク質の合成を促進し、筋力の維持を助ける 可能性が示されています。高齢者や長期間の運動を行うアスリートにおいて、オメガ3系不飽和脂肪酸の摂取が筋萎縮(サルコペニア)の予防に貢献する可能性があると考えられています。
<運動パフォーマンスと疲労回復>
EPAやDHAの摂取が、筋持久力や疲労回復に好影響を与える可能性も示唆されています。これは、血流の改善や細胞膜の柔軟性向上によって、筋肉への酸素供給が向上するためと考えられます。
Eicosapentaenoic Acid (EPA) and Docosahexaenoic Acid (DHA) in Muscle Damage and Function
(Eisuke Ochi, Yosuke Tsuchiya: Nutrients, 10(5):552. 2018. doi: 10.3390/nu10050552.)

この論文では、EPAとDHAが筋損傷の軽減、炎症の抑制、筋タンパク質合成の促進、疲労回復の向上などに有益な効果を持つ可能性が示されました。しかし、ヒトを対象とした研究はまだ限られており、最適な摂取量やタイミング、長期的な影響を明確にするためのさらなる研究が必要です。
次回は、実際にクリルオイルをアスリートに投与した研究についてご紹介します。
2025年3月12日
(大久保 剛:仙台白百合女子大学)