オメガ博士による最新論文紹介
イヌの特発性てんかんに対する高用量DHAの効果

イヌで観察される特発性てんかんは脳に器質的病変がなく、明らかな原因が分からない状態で発作を繰り返す最も一般的な慢性神経疾患のひとつです。 この特発性てんかんの治療は、抗てんかん薬(AED)を処方することで発作の頻度を減らすことができますが、30%程度の症例においては、複数のAEDを使用しても発作の頻度や重症度を軽減することができません。 そのため、生活の質の向上を目的として、AEDの作用をサポートする薬剤の開発が期待されています。
ご紹介する論文では、高用量のDHA補給によって、イヌのてんかんを改善させることができるか報告されています。 イヌだけでなくヒトに対してもDHAの抗てんかん効果について議論は続いていますが、ここでは安全性の高い高用量のDHA(DHA70 BAPT)を与え、その効果を評価しています。 対象例数の少ないパイロット試験ですが、参考になるものですので紹介いたします。
イヌの特発性てんかんに対する高用量ドコサヘキサエン酸補給の追加療法としての効果(パイロット研究)
非盲検臨床試験で、イヌ6匹の6カ月間のパイロット研究が実施されました。 試験には、1カ月間に5~45回(中央値: 9.0回)の特発性てんかんやその前兆を示したイヌ6匹(中央値: 6歳)を使用しています。
6カ月間の試験期間中、試験前から処方されている抗てんかん薬は継続しつつ、DHAサプリメント(ソフトカプセル)が100~200 mg/kg/dayで処方されました。 また、実験者が毎日訪問して、発作の回数や身体の状態などのフォローアップが行われました。
その結果(表)、試験期間中、6匹中2匹のイヌが脱落しましたが、DHAの投与開始から2~3カ月以内に全てのイヌで発作頻度が50%以上減少し、5~6カ月後には4匹中3匹で、発作回数が月に0~1回まで減少しました(P=0.034)。試験終了後、全例において身体の状態や血液検査結果に有害事象は認められませんでした。
研究はランダム化比較試験ではなく、対象例数が小さいため検出力はかなり低いものではありましたが、試験前後の発作頻度は統計学的に改善が観察されたため、高用量 DHA 製剤の補給がイヌの特発性てんかんの治療に有用なサプリメントである可能性を示唆しています。 DHAの有効性を検証するには、さらに大規模な試験が必要です。
Effects of high-dose docosahexaenoic acid supplementation as an add-on therapy for canine idiopathic epilepsy: A pilot study.
(Yonezawa T, Cris Niño Bon B Marasigan, Matsumiya Y, Maeda S, Motegi T, Momoi Y. Open Vet J. 2023 13: 942-947. doi: 10.5455/OVJ.2023.v13.i7.14. Epub 2023 Jul 31.)

イヌのてんかんの発作頻度を低下させるDHAのメカニズムは十分に解明されていませんが、てんかんマウスモデルを用いた報告では、DHAはセロトニン分泌を増加させ、シナプス後膜のセロトニン受容体を促進し、神経ステロイド分泌活性を上昇させることが示唆されています1, 2)。 さらに、DHAなどのオメガ3系脂肪酸は大脳皮質の神経細胞に豊富に存在し、細胞膜の流動性や細胞可塑性を高めることが知られています3)。 また、DHAは内向のカルシウム電流を減少させ、活動電位後の細胞の不活性化状態を延長させます4)。 今回の試験では、上記のようなDHAの作用機序に肯定的な効果が得られていますので、てんかんに対するDHAの生理学的効果を分析する将来の研究をサポートすることが期待されます。
1) Patrick R.P, Ames B.N. Vitamin D and the omega-3 fatty acids control serotonin synthesis and action, part 2: relevance for ADHD, bipolar disorder, schizophrenia, and impulsive behavior. FASEB. J. 2015, 29, 2207-2222.
2) Ishihara Y, Itoh K, Tanaka M, Tsuji M, Kawamoto T, Kawato S, Vogel C.F.A, Yamazaki T. Potentiation of 17beta-estradiol synthesis in the brain and elongation of seizure latency through dietary supplementation with docosahexaenoic acid. Sci. Rep. 2017, 7, 6268.
3) Lauritzen L, Brambilla P, Mazzocchi A, Harsløf L.B.S, Ciappolino V, Agostoni C. DHA effects in brain development and function. Nutrients. 2016, 8, 6.
4) Xiao Y.F, Gomez A.M, Morgan J.P, Lederer W.J, Leaf A. Suppression of voltage-gated L-type Ca2+ currents by polyunsaturated fatty acids in adult and neonatal rat ventricular myocytes. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 1997, 94, 4182-4187.
2025年2月27日
(原馬 明子,守口 徹:(株)食機能探索研究所BABILON)