オメガ博士による最新論文紹介
皮膚の健康とオメガ3脂肪酸~紫外線に負けないように~
皮膚には、ほこりや菌などの異物が体内に入るのを防ぎ、水分を保持し体が乾燥しないようにする、等の大切な働きがあります。皮膚組織の一番外側に位置する部分を表皮といいます。表皮の厚さはわずか0.2mmであり、外側から角層、顆粒層、有棘層、基底層の4層からなります。基底層で新しい細胞が作られ、それが少しずつ押し上げられて角質細胞となり、古くなった細胞は、キューティクル(垢)として剥がれ落ちます。皮膚を健康に保つためには、ターンオーバーが正常に行われることも重要となります。
オメガ3脂肪酸の皮膚への影響に関する研究では、炎症性皮膚疾患やアトピー性皮膚炎等を緩和する作用について報告がされてきました。しかし、皮膚のバリア機能を維持する表皮の水分と脂肪酸の関係を調べた研究はほとんどありません。本学会の理事でもある原馬明子先生の研究グループは、オメガ3脂肪酸を適量摂取させたマウスとオメガ3脂肪酸を欠乏させたマウスの両者を用いて、経表皮水分喪失量(TEWL)と角層水分量(SCH)の経日的変化を測定し、紫外線照射部位の皮膚バリア機能障害の程度を検討されました。その結果が論文として公表されていますのでご紹介します。
オメガ3脂肪酸は紫外線Bによる皮膚障害を緩和する
オメガ3脂肪酸を適量含む飼料または欠乏飼料を与えたマウスに、紫外線B(UV-B:波長は280-320nm)を照射し、その翌日、経表皮水分損失(TEWL)と角層水分量(SCH)を測定する作業を14日間連続で行いました。
UV-B照射を繰り返すと、オメガ3 欠乏マウスではTEWLが有意に増加しましたが、オメガ3適量マウスではこの増加は有意に抑制されました(図A)。UV-B照射によるSCHの減少は、オメガ3適量マウスに比較してオメガ3 欠乏マウスでやや大きい傾向がみられましたが、その差は有意ではありませんでした(図B)。両群ともUV-B照射により、有棘層と基底層の肥厚が認められました。さらに、オメガ3欠乏マウスでは、顆粒層が有意に減少し、角層に異常な層形成が生じるなど、表皮構造が乱れていました。
これらの結果から、UV-Bの連続照射は表皮のターンオーバーを促進し、表皮の肥厚をもたらすことが示されました。オメガ3脂肪酸を適量投与することで、表皮の水分量が保持されたこと、表皮構造の乱れが少なかったこと等、UV-Bによるストレスから体を守ることが示唆されました。
Omega-3 fatty acids mitigate skin damage caused by ultraviolet-B radiation.
(Harauma A, Enomoto Y, Endo S, Hariya H, Moriguchi T, Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids, 11:203:102641, 2024. doi: 10.1016/j.plefa.2024.102641.)
マウスとヒトで多少の違いはあるにしても、本研究の結果は、UV-B照射による皮膚ダメージの回復に、オメガ3脂肪酸の食事からの摂取が重要な役割を果たしていることを示しています。UV-A (波長は320-400 nm)に比べてUV-Bはエネルギーが高く、表皮でより多く吸収され、人体への影響が大きいと言われます。オゾン層破壊の影響の懸念もあり、紫外線防御対策の重要性はますます高まっています。原馬先生らは、「日焼け止めクリームなどで紫外線を遮断するだけでなく、魚介類やあまに油、えごま油などオメガ3脂肪酸を多く含む食品を摂取して体内環境を改善するなど、皮膚のバリア機能を維持するための対策が必要」と提言されています。
2024年10月16日
(川端 輝江:女子栄養大学)