日本脂質栄養学会

お問い合わせ
市民の皆さまへ
Facebook
X
Instagram
市民の皆さまへ
HOME市民の皆さまへDHAと概日リズム

オメガ博士による最新論文紹介

DHAは高脂肪食による概日リズムの乱れをリセットする!?

オメガ博士

概日リズムやサーカディアンリズムとも言われる体内時計は、体内に存在する約24時間の周期のリズムを指します。これは、体温や消化機能、睡眠・覚醒のサイクル、ホルモン分泌など様々な機能を調整する内因性のタイマーのようなものです。この体内時計の調整には、食事のタイミングや内容も関わっています。概日リズムが乱れると睡眠障害や肥満につながります。魚の脂質成分であるドコサヘキサエン酸(DHA)補給が、体内時計の調整にどのように影響するか、動物を用いて検討した研究を紹介します。

この研究では、DHAの脂質代謝改善効果も併せ、非アルコール性肝疾患(NAFLD)*1を引き起こす高脂肪食による影響もみています。

DHA置き換え食は、高脂肪食による脂質代謝の概日リズムの乱れを修復する

ラットをコントロール食、高脂肪食、DHA置換え食の3つのグループに分けて、12週間飼育しました。飼料は、コントロール食の脂質がエネルギー当たり10%に対し、高脂肪食が42%です。DHA置き換え食は、高脂肪食の油脂(DHAゼロ)の一部を海藻の油に置き換え、えさ重量の2.28%をDHAにしたものです。時間は、午前7時と午後7時で比較をしています。

高脂肪食群では、生化学検査や組織分析の結果からNAFLDを引き起こし、DHA置換え食群では、NAFLDを抑制することが確認されました。

コントロール食群では、時計遺伝子ClockBmal1の発現は午後7時より午前7時が高く、朝夕が異なる正常な概日リズムを示しました。一方、高脂肪食群では、朝夕の違いがなく概日リズムが崩れていましたが、DHA置換え食群では、コントロール食群と同様の朝夕の違いがみられました。

この概日リズムに伴って、時計遺伝子を調節するタンパク質(RORαとREV-ERBα)及び脂質代謝に関わるタンパク質(INSIG2)の発現が変動しました。INSIG2は、コレステロールや脂肪酸の合成を制御する転写因子*2SREBPの活性を調節しています。そのSREBPが活性化されることにより、HMGCRやFASなどの酵素を介してコレステロールや脂肪酸合成が促進されます。高脂肪食では、コントロール食やDHA置換え食と比べてSREBPやSREBPによって制御される酵素が午前7時と午後7時の両方で著しく増加し、中性脂肪やLDLコレステロールなどの脂質が高値を示しました。DHA置換え食群では、これらのタンパク質が減少し、脂質代謝が改善されました。

高脂肪食では、午後7時でClockBmal1の発現を上昇させることにより概日リズムを乱し、時計遺伝子を調節するタンパク質(RORαとREV-ERBα)、さらにそれらに調整されるINSIG2とSREBP経路を通じて代謝異常を起こします。一方、DHAに置換えることにより、概日リズムを回復させ、時計遺伝子を調整するタンパク質などによる代謝経路を通じて脂質代謝を改善し、肝臓の脂肪を減少させると考えられました。

*1 欧州肝臓学会と他団体は2023年にNAFLD(non-alcoholic fatty liver disease)よりMASLD(metabolic dysfunction associated steatotic liver disease)に病名変更
*2 転写因子:DNAに結合して遺伝子の活性を調節するタンパク質

DHA substitution overcomes high-fat diet-induced disturbance in the circadian rhythm of lipid metabolism
(Chen R, Zuo Z, Li Q, et al. Food Funct., 11(4),3621-3631(2020) ; doi: 10.1039/c9fo02606a)

オメガ博士

中性脂肪低下の効果をみた魚油添加の魚肉ソーセージ摂取タイミングでは、夕より朝に摂取する方が良いという報告1)があります。朝に魚を摂取することで、体内時計をリセットする効果も期待できるかもしれません。

1) Konishi T, et al., Nutrition 90, 11247, 2021

2024年7月17日
(堀口さやか:埼玉医科大学病院栄養部)

PAGE TOP