オメガ博士による最新論文紹介
妊活に必要なオメガ3脂肪酸
日本では年々総出生児数が減少し、不妊に悩む夫婦が増え、6組に1組が生殖補助医療(ART)を利用していると言われています。 それに伴い、ARTによる出生児数は増加し、2016年では総出生児数の5%を超えています。 この背景には、女性の社会進出による晩婚化、晩産化などの社会的要因が大きく関連していることは否めませんが、「食生活の乱れ」によるものも大きな原因と考えられます。
食事性のオメガ3脂肪酸は、女性の生殖寿命を延ばし、卵子の質を改善する
高齢女性の生殖補助医療(ART)もしくは自然妊娠による出産は、良い結果は少なく、さらに、染色体異常や先天性欠損症の発生率も年齢とともに増加します。 現在のところ、卵巣の老化を遅らせたり、卵母細胞の質を改善するための有効な方法はありませんが、動物実験ではオメガ3脂肪酸の有効性がいくつか報告されています。
そのうちのひとつに、オメガ3脂肪酸(DHA)を豊富に含む飼料で飼育繁殖した雌性マウスの生殖機能は高齢期まで維持され、逆にオメガ6脂肪酸が豊富な飼料で飼育繁殖した雌性マウスでは高齢期の妊娠率が非常に低くなっていました。 さらに、通常飼料で飼育し、加齢に伴う生殖機能の低下した高齢期の雌性マウスに、オメガ3脂肪酸が豊富な飼料を短期間摂取させると、卵母細胞の質を改善させることも示されました。 一方、オメガ6脂肪酸は、この短期間の摂取でも卵母細胞の質を顕著に低下させました。 これらのことから、オメガ3脂肪酸の積極的な摂取とオメガ6脂肪酸の過剰摂取を控えることは、卵巣の老化を遅らせ、高齢期の卵母細胞の質を改善するための効果的かつ実用的な方法である可能性があります。
Prolonging the female reproductive lifespan and improving egg quality with dietary omega-3 fatty acids
(Nehra D, Le HD, Fallon EM, Carlson SJ, Woods D, White, Pan AH, Guo L, Rodig SJ, Tilly JL, Rueda BR, Puder M : Aging Cell., 11: 1046-1054, 2012.)
海外において、ARTを受けている女性の血清オメガ3脂肪酸と治療結果を検証した研究では、血清中のオメガ3脂肪酸濃度が高いほど、妊娠および出産の可能性が高くなったという報告もあります1)。
まだ日本ではあまり浸透していませんが、妊活の一つとして女性も男性も妊娠に向けての身体作り(プレコンセプション)が必要です。 今回ご紹介した報告からも、高齢女性の妊娠、出産、また不妊治療の効果を得るためにはオメガ3脂肪酸の摂取が重要であることが分かりました。 身体の状態を整えるには、日頃から身体を作る源となる食物、オメガ3脂肪酸を取り入れた食生活を見直すことが一番大事ですね。
参考文献
1) Y-H Chiu 1 2, A E Karmon 3, A J Gaskins 1 4, M Arvizu 1, P L Williams 2 5, I Souter 3, B R Rueda 3, R Hauser 2 3 6, J E Chavarro 1 2 4, EARTH Study Team. Hum Reprod, 33:156-165, 2018.
2021年2月26日
(守口 徹:麻布大学)