日本脂質栄養学会

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オメガ博士による最新論文紹介

オメガ3と酸化ストレスとの関連-運動選手を対象として-

オメガ博士

酸化ストレスを知っていますか?酸化ストレスとは、炎症や感染などをきっかけに、抗酸化能力*1よりも活性酸素*2が上回りバランスが崩れた状態で、生体膜や臓器障害による疾患の発症に関与しているといわれています。つまり、酸化に対する防除作用が減少している状態です。この活性に寄与する栄養素としてビタミンB2のリボフラビン、ナイアシン、ビタミンB、葉酸やβ-カロテン、ビタミンEがあります。これらの他に、オメガ3による活性酸素生成抑制による炎症抑制効果など報告されています。

運動時には呼吸数、心拍数、心拍出量の増加により酸素需要量が増大します。そのため運動選手は過度な運動、負荷により酸化ストレスが産生されやすい環境にあります。競技によっては筋肉の損傷など様々な障害が重なってきます。運動刺激は、サイトカインなどの細胞内シグナル伝達が誘導されることが知られています。

今回は、運動選手、非運動選手を対象にオメガ3の摂取による酸化ストレスと炎症性物質の関連性について8週間の介入を行った論文を紹介します。

運動の有無によるオメガ3摂取による酸化ストレス、炎症性マーカーとの関連
-運動選手と非運動選手を対象としたパイロット研究-

本研究は、29名の健康な若年者を対象に定期的に運動をしている運動群(中・長距離選手)21名と運動は週に2回程度で、1時間程度の非運動群の18名の2群に分けました。オメガ3を8週間摂取したのち、血液検査、酸化ストレス検査などを唾液、血液、尿を用いて測定しました。試験食品には、魚油(イワシ、サバなど)が1,380mgでエチルエステルのオメガ3系脂肪酸が950mg(EPA400mg、DHA200mg)配合されたソフトカプセルを1日に4つ摂取(うちn-3系脂肪酸が4g、朝食時2つ、昼食時1つ、夕食時1つ)しました。

その結果、運動群は非運動群と比較し、血中中性脂肪値の有意な低値、酸化ストレスの指標である尿中MDA*3の有意な低値が認められました。また、運動群は、血液中と唾液中のテストステロン*4とコルチゾール*5に強い相関関係が認められました。さらに、テストステロン/コルチゾール(T/C)の濃度比率からオメガ3摂取による関連を調べたところ、運動群、非運動群共に減少傾向となりました(図)。そして、炎症誘発性サイトカインであるTNF-αでは、運動群、非運動群いずれも有意な低値が認められましたが、運動群の方が顕著に減少しました。

介入試験の結果から、中・長距離選手におけるオメガ3摂取は、血液だけでなく唾液、尿のなどの生体検査から、抗炎症作用が示唆される結果となりました。酸化ストレスの産生抑制に働くことが期待されます。

オメガ3の8週間摂取による運動選手と非運動選手のT/C 比率

Effect of 8-week n-3 fatty-acid supplementation on oxidative stress and inflammation in middle- and long-distance running athletes: a pilot study.
(Buonocore D, J Int Soc Sports Nutr. 17, 1-19, .2020)

オメガ博士

本研究は血液の他に唾液をサンプルとして用いられた試験でした。唾液は、対象者から血液を採取する侵襲型ではない為、モニタリング、採取が簡便であるメリットがあります。介入試験では臨床学的指標として血液採取といった侵襲型が用いられますが、唾液採取は非侵襲的で簡便に採取できることから、今度も血液だけではなく、唾液との関連についても期待されます。

*1 抗酸化能力:活性酸素の産生の抑制やダメージの修復・再生を促す働き
*2 活性酸素:呼吸により取り込まれた酸素の一部が活性化された状態になること
*3 MDA:Malondialdehyde マロンジアルデヒド
*4 コルチゾール:タンパク質の分解を促進するホルモン
*5 テストステロン:タンパク質の合成を促進するホルモン

2024年4月25日
(保科 由智恵:仙台青葉学院短期大学、西川 正純:宮城大学)

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