オメガ3-食と健康に関する委員会

味覚・臭覚障害とオメガ3の保護作用

オメガ博士

脳腫瘍の一つである鞍上部腫瘍はトルコ鞍とよばれ、両目奥、真ん中に存在する脳下垂体と呼ばれる器官に入っているところにできる腫瘍のことです。ヒトはそこから必要なホルモンを分泌します。

鞍上部腫瘍を摘出するには、開頭と内視鏡下で摘出する方法があります。脳内腫瘍による頭蓋内圧が高くなり、様々な症状がみられますが、臭覚に障害が出ることがあるとされています。内視鏡による頭蓋底手術によるリスクとして個人差は大きいですが、臭覚喪失が報告されています。

今回は、内視鏡手術後の患者へのオメガ3摂取による臭覚機能への影響について比較した試験を紹介します。

臭覚障害にオメガ3が発揮する−多施設前向きランダム化比較試験−

本研究の対象は、2014年9月から2018年4月までの18歳以上の患者110名でした。対象者を対照群(55名)とオメガ3を摂取する試験群(55名)の2群に無作為に割り付けました。いずれの群も生理食塩水による鼻腔洗浄を行い、試験群にはオメガ3(1,400mgを1日2回、合計2,000mg)を摂取させた介入試験(8週間)を実施しました。臭覚障害の評価には、臭覚識別テストのUniversity of Pennsylvania Smell Identification Test (UPSIT)*1を用いて、介入前、6週間後、3か月後、6か月後に評価を行いました。

全評価期間を終えることができたのは対照群41名、試験群46名でした。治療開始前のUPSITスコアと比較し、試験群は6週間後と3か月後を比較し有意に改善しており、6週間後と6か月後を比較してもスコアの有意な高値が認められたことから、臭覚機能が回復し介入前と同水準にまでになることが報告されました(図-A)。

次に、治療開始前と比較しUPSITの平均値の変化量を比較した結果、試験群では、6週間後に有意な低値が認められ、臭覚障害の喪失が見られましたが、3・6か月では改善が見られ、6か月後には治療開始前と同水準まで機能が戻っている可能性が示唆されました。一方の対照群では、いずれの期間においても有意な低値が認められ、6か月後も臭覚機能が喪失している状況であったと考えられました(図-B)。

筆者らによると、機能喪失の理由として、オメガ3の臭粘膜に対する抗炎症作用による保護効果であると考察しています。

以上のことから、オメガ3を摂取することで、術後の臭覚喪失を防ぐ可能性のあることが示唆されました。

オメガ3摂取の有無による臭覚機能の回復状況

Effect of Omega-3 supplementation in patients with Smell Dysfunction Following Endoscopic Sellar and Parasellar Tumor Resection: A Multicenter Prospective Randomized Controlled Trial.
(Yan CH, et al., Neurosurgery, 87, 91-98, 2020)

オメガ博士

オメガ3には、抗酸化作用、脳の機能や発達、生体内での情報の伝達に重要な栄養素です。私たちの身体では、合成することができないため、食事を通して摂取する必要があります。内視鏡下による頭頚部術後は、臭感覚が喪失するリスクがあるいわれています。今回は前向きランダム化比較試験*2の研究結果でした。今後もオメガ3の機能性を生かした病態栄養の発展を期待したいです。

*1 UPSIT(University of Pennsylvania Smell Identification Test)臭覚検査の一つ
*2 ランダム比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial)暴露要因以外を公平にして群分け、比較を行い、暴露要因の影響を調べる比較研究

2024年4月18日
(保科 由智恵:仙台青葉学院短期大学、西川 正純:宮城大学)