日本脂質栄養学会

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オメガ博士による最新論文紹介

魚油をいつ摂取すると、より体に良い?~時間栄養学と効果的な魚油摂取~

オメガ博士

「時間栄養学」という言葉を聞いたことがありますか。栄養素の吸収、分布、代謝および排泄には、約24時間周期のリズム(サーカディアンリズムまたは概日リズム)があるということを取り入れた栄養学のことです。例えば、緑茶に多く含まれるカテキンという成分は食後血糖値の上昇を抑制しますが、その効果はカテキンの摂取タイミングによって異なることがヒトやマウスを用いた研究で示されています。具体的には、起床後にカテキンを摂取するよりも、夕方摂取する方が食後血糖上昇抑制効果は高くなります。そこで今回は、このような食品成分の摂取タイミングによる効果の違いに注目して、魚油(FO)の効果的な摂取タイミングはいつだろうということを調べた研究を紹介します。

食べ過ぎ、飲み過ぎ、運動不足といった生活習慣によって、血液中のトリグリセリド(中性脂肪、TG)濃度が高くなります。TG濃度が高くなると動脈硬化が促進し、さらに動脈硬化が悪化すると心筋梗塞等の心血管系疾患が発症します。一方、FOを摂取すると、心血管系疾患の発症リスクが下がることが疫学研究*1で明らかとなっています。FOには、オメガ-3多価不飽和脂肪酸(ω-3PUFA)の仲間のドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)が含まれています。FO摂取による心血管系疾患の発症リスク低下効果は、ω-3PUFAの持っている抗炎症、抗アテローム性動脈硬化および抗血栓作用によるものです。

今回紹介する論文を発表した研究グループは、これまでにマウスを用いた研究で、FO摂取による血液中および肝臓中のTG低下作用は、その摂取の時間が夕方の場合よりも朝の方が効果的であることを明らかにしています。そこで本研究ではヒトを対象とし、TG低下作用がより顕著なのは、FOを朝摂取した場合か夕方摂取した場合か調べる研究を行いました。なお、FOの摂取方法として、私たちの身近な食材である魚肉ソーセージを用いています。

正常血清脂質成人の血清脂質パラメータおよび脂肪酸組成に対するFOリッチソーセージの摂取時間による効果:
ランダム化二重盲検並行群間比較パイロット研究

魚油(FO)はω-3PUFAであるDHAおよびEPAを豊富に含み、その摂取によってTGレベルを低下させます。この効果が、体内時計による成分代謝コントロールを受けるかどうか調べるため、健康な日本人成人を対象としたランダム化二重盲検並行群間比較研究を実施しました。20名の健康な成人(20~60歳)を、魚油を摂取する時間帯を朝とするBF-FO群と、夕方とするDN-FO群の2群に分けました。実験では、BF-FO群は、朝は魚油リッチソーセージ(DHA 1,010 mg、EPA 250 mg)、夕方はプラセボソーセージ(DHA 40 mg、EPA 15 mg)を、DN-FO群は、朝はプラセボソーセージ、夕方は魚油リッチソーセージを摂取するスケージュールで8週間摂取しました。摂取期間前、摂取第4および8週に絶食下で採血し、血清生化学各種パラメータ、脂肪酸組成および血液細胞における脂質代謝関連遺伝子発現を調べました。8週間の摂取期間後、血清中ω-3PUFAは両群で同様に増加しましたが、TGおよび総飽和脂肪酸濃度はBF-FO群で有意に減少しました。また、血清中ω-6PUFAはBF-FO群でのみ有意に低下しました。一方、脂質代謝関連遺伝子であるACLYSCDおよびFASNのmRNA発現は、両群において減少し、両群間の差は認められませんでした。まとめると、FO摂取のタイミングが、血中脂質レベルが正常な成人での血清脂肪酸濃度およびTG代謝に影響を与えることが示唆されました。

魚油を摂取する時間帯の異なる2群における血清脂質の変化量の違い

Time-of-day effects of consumption of fish oil-enriched sausages on serum lipid parameters and fatty acid consumption in normolipidemic adults: A randomized, double-blind, placebo-controlled, and parallel-group pilot study.
(Konishi T, et al., Nutrition 90, 11247, 2021)

オメガ博士

本研究では、魚油を摂取する方法として摂取しやすい魚肉ソーセージを用いました。そしてこの研究からわかったことは、FO摂取によるTG低下効果を期待するのであれば、夕方よりも朝、摂取する方が良いということでした。しかしその効果は4週間の摂取期間では現れず、この食習慣を8週間継続することが必要なようです。一方で、背景メカニズムの解明には至っていないので、今後の研究の発展に期待が寄せられます。

*1 疫学研究:地域や特定の人の集団で発生する疾病の原因や発生条件、治療の有効性等を明らかにする研究方法。

2024年2月1日
(内藤由紀子:北里大学)

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