オメガ3-食と健康に関する委員会

健常な中・高齢者の骨密度に及ぼすえごま油摂取の効果に関する検証

オメガ博士

えごま油にはω3系脂肪酸であるα-リノレン酸が約60%含まれ、この多価不飽和脂肪酸は、生体内で魚油の主成分であるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)に変換されることから、近年、その機能性については注目されています。しかしながら、ヒトの場合、ラットなどの齧歯類と異なり、α-リノレン酸からEPA・DHAへの変換は十分でありません。今回、健常な中・高年齢者を対象として、えごま油を摂取した時の骨代謝への影響を調べました。

健康な日本人成人において、えごま油は骨吸収の抑制により骨の健康を改善する
〜12ヵ月間の無作為化二重盲検プラセボ対照試験〜

健常な中・高齢者(平均年齢54歳)に、えごま油を1日当たり7 mL、12か月間摂取していただいたところ、赤血球膜のα-リノレン酸レベルが増加しました。それと共に踵骨の骨密度が増加し、骨を弱くする働きの指標である血清中の酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ5b(TRACP-5b)は低下しました。さらに身体の抗酸化能力の指標である血清中の抗酸化能/活性酸素代謝物(BAP/d-ROMs比:抗酸化指標)が増加しました。この時、12ヶ月後の骨密度と骨吸収マーカー(TRACP-5b)には負の相関(図a)が見出されました。また、12ヶ月後の赤血球膜α-リノレン酸は、骨密度と正の相関(図b)が、骨吸収マーカーと負の相関(図c)がそれぞれ見出されました。

骨密度、赤血球膜α- リノレン酸、骨吸収マーカーとの相関

Perilla seed oil improves bone health by inhibiting bone resorption in healthy Japanese adults: A 12-month, randomized, double-blind, placebo-controlled trial.
(Matsuzaki K., Hossain S., Wakatsuki H., Tanabe Y., Ohno M., Kato S., Shido O., Hashimoto M., Phytother. Res., (2023) 37:2230-2241.)

オメガ博士

様々な疫学調査では、ω3系脂肪酸を多く摂るヒトは骨密度や骨代謝マーカーを改善することが報告されています。しかし、ヒト介入試験ではDHAやEPAによる骨密度への改善効果は定かではなく、α-リノレン酸に至ってはほとんど検討されていません。ヒトは加齢とともに酸化ストレスによる攻撃から防御する機能(抗酸化能)が弱くなりますが、中高年になると骨折しやすくなるのも抗酸化能の低下が主なる要因の一つであると考えられています。えごま油にはα-リノレン酸以外にもロスマリン酸など、強力な抗酸化物質が含まれることから、えごま油を毎日摂取するヒトはしないヒトに比べて抗酸化能が増加して骨を丈夫にすると思われます。高齢者の骨の胒弱化は骨折をまねき、フレイル、さらには認知症など様々な老人性疾患を招くことが考えらます。ヒトでの更なる検証が必要ですが、えごま油は様々な老人性疾患の予防に役立つ食品として推奨できると思われます。

2024年1月24日
(橋本 道男:島根大学)