日本脂質栄養学会

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オメガ博士による最新論文紹介

DHAとEPAは、筋肉に有効か?
(その2)運動による筋損傷への効果

オメガ博士

筋組織は、筋肉たんぱく質の合成と分解を繰り返しています。何も運動をしないと分解の方が優位になって、筋肉が減少してしまいます。したがって、筋肉を維持するためには運動は継続的に必要です。また、アスリートのように記録の更新を目指して運動をする場合は、継続してトレーニングをすることがパフォーマンスの向上には必須条件となります。しかし、運動によって筋肉は多かれ少なかれダメージを受け、炎症や痛みとなって現れてきます。これらの炎症や痛みを上手に軽減し、コンスタントに運動を続けられるように自己管理を行うことが、健康のためにもパフォーマンスの向上のためにも重要であることがわかっています。オメガ3系高度不飽和脂肪酸のサプリメントはその抗炎症作用によって、運動による筋損傷を抑える可能性があるとされていますが、その有効性はまだ不明なところもあります。ここでは、英国で行われた健康な男性14名を対象に、その効果を検証した試験を紹介します。

運動による筋損傷に対するオメガ3系高度不飽和脂肪酸の効果

健康な男性14名(年齢14、25.07 ± 4.05 歳)を、1日あたり3gのオメガ3系高度不飽和脂肪酸サプリメント(715mgEPAと286mgDHAを含むカプセルを1日に3粒)を摂取する群とプラセボのサプリメントを摂取する群に割り付け、4週間の摂取後に、運動負荷を与えました。具体的には、最大酸素摂取量の65%となるような、傾斜10%の下り坂のランニングを60分間行いました。運動前、終了直後、そのあと3日目まで各日の筋肉痛の自覚や、筋力、血中の炎症性パラメータ等を測定しました。

運動の負荷によって、筋肉細胞がダメージを受けたときに血液中に出てくる酵素として知られるクレアチンキナーゼが、24時間後をピークとして両群とも運動前に比べて有意に上昇しました。これは運動負荷によって、筋肉のダメージが起きていることを示しています。ばらつきが大きく統計的に有意差は検出できていませんが24時間後のクレアチンキナーゼの増加率の中央値は、プラセボ群に比べてオメガ3群は低い値となっていました。またIL-6(炎症性のサイトカイン)は、プラセボ群で運動負荷前に比べて運動負荷直後に有意に上昇しましたが、オメガ3群では、運動負荷前後で有意な上昇は見られませんでした。このことは、オメガ3の摂取が、炎症を抑制した可能性を示しています。

しかし、運動負荷後の各時点で両群を比較すると、血液中のこれらの物質の増加率は、群間で統計的有意差は検出されませんでした。筋損傷による筋力低下においても両群で群間差は見出されませんでした。

サプリメントの摂取群とプラセボ群で有意な差が見られたのは、数値化した筋肉痛の自覚で、24時間後に群間で有意差が見られました(図)。

この試験では、被験者数が少なく、客観的な数値データについては、統計的有意差の検出に至らなかったものの、少なくとも筋肉痛の自覚はサプリメント群で有意に改善されたことから、オメガ3摂取は、痛みによる運動の休止を防ぐために有効だと考えられます。

運動負荷前と負荷後72 時間までの遅発性筋肉痛の自覚症状の程度の比較

The effect of omega‐3 polyunsaturated fatty acid supplementation on exercise- induced muscle damage.
(Kyriakidou et al. Journal of the International Society of Sports Nutrition 18:9、2021)

オメガ博士

オメガ3脂肪酸(EPA,DHA混合)摂取によって、運動負荷で筋肉に生じる「自覚される痛み」を軽減できることがわかりました。魚油は欧米では以前から持久系スポーツに関わるアスリートよって常用されていましたが、その理由は血液の流動性向上による、酸素運搬能の向上など循環器への効果を期待してだと思われます。

しかし近年は、オメガ3系高度不飽和脂肪酸とそれらが体の中に入ってから変換されてできる代謝物に強力な炎症抑制効果が見出された事によって、オメガ3系高度不飽和脂肪酸に期待される有効性の範囲が広がり、筋肉への効果も研究が盛んになっています。

アスリートでなくても、健康的に筋肉を維持するためには継続的な運動が必要ですし、より多く筋肉をつけようとすると少し負荷の大きな運動も必要になります。そんなとき筋肉痛になったからという理由で運動をしばらく休んでしまうと、むしろ運動しない時期を作ってしまうことになり逆効果になります。

継続的に運動を続けるためには、オメガ3を摂取する習慣をつけて筋肉痛を起こしにくくすることが有効な手段だと思われます。

2023年12月18日
(辻 智子:(株)吉野家ホールディングスグループ商品本部素材開発部)

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