オメガ3-食と健康に関する委員会

EPA・DHAと糖尿病との関係は如何に? (2)

オメガ博士

前回に引き続き、糖尿病とオメガ3との関係を調べたオーストラリアの研究結果を紹介します。

前回のあらすじ:脳機能や脂質代謝改善に効く魚油は糖尿病にもいい影響があるのでしょうか。いくつかの報告がありますが、相反する結果が得られており、はっきりとした答は得られていません。オメガ博士による論文紹介では、前回、「ヒト赤血球膜におけるEPA/DHA含量」と「糖尿病有病率」を調べたオーストラリアからの報告を紹介しました。調査結果は「過体重の高齢女性集団に限れば、赤血球膜のEPA/DHA含量が低いほど、糖尿病有病率が高くなる」というものでした。

この調査は、横断研究(ある集団のある時点における疾病の有無と要因の保有状況を調べる研究)で実施されており、この結果からは「糖尿病の有病率が高い」と「赤血球のEPA/DHA含量が低い」という2つの事象に因果関係があるかどうか、はっきりしません。因果関係を調べるには、観察された事象とその要因の経過を長期的に調査する縦断的研究を行う必要があります。今回紹介する文献は、前回と同じオーストラリアの研究グループの報告です。彼らは、12週間の食事介入を行う縦断的研究を行い、魚油摂取は、成人肥満者に対し、インスリン抵抗性を改善することを明らかにしました。

DHAに富む魚油は過体重と肥満成人におけるインスリン抵抗性を低下させる

オーストラリアのニューカッスル大学近隣より、肥満(腹囲:男性 102 cm 以上、女性 88 cm 以上)であるが、糖尿病ではない参加者を募り、DHA が豊富な魚油サプリが インスリン抵抗性を改善するかどうかを調べました。参加者の平均年齢は、50.9 ± 12.7 歳、女性の割合は 63.7%、平均BMIは32.4 ± 6.6 kg/m2です。魚油群は2 g の魚油(860 mg DHA + 120 mg EPA)を(n= 38)、対照群は 2gのコーン油を毎日、摂取しました(n=35)。12週間の試験期間の後、それぞれの血液を調べてみると、魚油サプリを摂取した群は、赤血球膜のEPA+DHA含量が増加すると共に、空腹時インスリン値とHOMA-IR(インスリン抵抗性の指標)値が有意に低下していました。この効果は試験前の空腹時インスリン値とHOMA-IR(インスリン抵抗性の指標)値が高い人、すなわち、糖尿病予備群の人で、顕著に現れることもわかりました(図)。

魚油の摂取は糖尿病予備群者のインスリン抵抗性を改善する

DHA-enriched fish oil reduces insulin resistance in overweight and obese adults
(Abbott KA, Burrows TL, Acharya S, Thota RN, Garg ML, Prostaglandins, Leukot Essent Fatty Acids, 159: 102154, 2020)
DOI: https://doi.org/10.1016/j.plefa.2020.102154

オメガ博士

論文中の記載によれば、既に糖尿病に罹患した患者に対する魚油の効果は限定的、だそうです。著者らは、魚油サプリの効果が期待できるのは、あくまでも糖尿病予備群の状態にある肥満成人であろう、と考察しています。

この研究を実施したオーストラリアの研究グループは、まず、大規模横断的研究(初期参加者3,490名)を実施して(前回の記事参照)、魚油サプリの効果が期待できそうな集団を特定しておき、その集団を対象に介入研究を行い、魚油摂取が効果を示す範囲を示した、といえるでしょう。この研究展開によって得られた知見は高い信頼性があるように思え、オメガ博士としてもたいへん参考になりました。

日本人を含むアジア人は肥満でなくとも糖尿病になりやすい、と言われます。アジア人では、体重が正常範囲にあっても、インスリン抵抗性の数値が高ければ、魚油サプリの効果が得られるかもしれません。この論文を読んで、糖尿病にならないために、魚の摂取を心がけるとともに、久しぶりにランニングを再開しようか、と思った次第です。

インスリン抵抗性: インスリンが分泌されているにもかかわらず、その働きが悪いために血糖値が下がらない状態をいう。インスリン抵抗性の増大は,肥満,脂質異常症,高血圧,糖尿病などの生活習慣病でみられる。

2023年11月8日
(田中 保:徳島大学)