オメガ博士による最新論文紹介
EPA・DHAと糖尿病との関係は如何に? (1)
厚生労働省の令和元年の「国民健康・栄養調査 (2019年)」によると、糖尿病および糖尿病が疑われる人の割合は、全男性の20%、全女性の10%で、年齢が高い層でその割合が高いようです。糖尿病患者には、国から医療費として、年間1兆2千億円が支払われています。患者の多くを占める2型糖尿病は代表的生活習慣病です。この疾患は、個人の努力により予防できるのですから、自分のためにも周りのためにも、内臓脂肪を溜め込まないよう、適正体重を保ち、運動を心かけましょう。
とはいっても、外に出ても、家でテレビやネットを見ていても、美味しそうな食べ物が、目、耳、鼻を刺激します。私の住む地方都市は典型的なクルマ社会で、どこへ行くのもクルマです。交通標語に、「まだ大丈夫 は もう危ない」というのがありますが、運動不足の私の健康診断の結果にも、これが当てはまるようになってきました。
脳機能や脂質代謝改善に効く魚油は、糖尿病にもいい影響があるのでしょうか。これに関しては、まだ、相反する報告が存在する状態です。今回は、「ヒト赤血球膜におけるEPA/DHA含量」と「糖尿病有病率」を調べたオーストラリアからの報告を紹介します。
高齢で過体重の人の赤血球におけるオメガ3脂肪酸と2型糖尿病の性依存的な関連性
オーストラリアに住む65歳以上の高齢者を対象に、赤血球のオメガ3脂肪酸レベル(オメガ3インデックス; オメガ3I)と2型糖尿病との関連を調べました。赤血球における脂肪酸組成を調べ、EPA+DHA (%)をオメガ3Iとし、空腹時血糖値、HbA1c、そして、血漿インスリン値との関連を調べました。82名の2型糖尿病患者(女性46.3%、平均年齢76.7± 5.9歳)と、466名の非糖尿病患者(女性57.9%、平均年齢77.8±7.1歳)から有効なデータが得られました。グループ分けを行って解析すると、過体重の女性集団で、2型糖尿病の有病率とオメガ3Iとの間に、有意な負の相関が認められました(図)。有意ではないものの、同様の傾向が過体重の男性集団にも見られました。一方、正常体重の高齢者には、そのような傾向は認められませんでした。すなわち、過体重の高齢女性集団に限れば、赤血球膜のEPA/DHAが低いほど、2型糖尿病の有病率が有意に高い、という相関が観察されたのです。著者らは、今後、オメガ3脂肪酸状態を改善する食事介入が、高齢肥満者の2型糖尿病の発症や悪化を防ぐかなど、さらなる研究が必要、と結んでいます。
Sex-dependent association between erythrocyte n-3 PUFA and type 2 diabetes in older overweight people
(Abbott KA, Veysey M, Lucock M, Niblett S, King K, Burrows T, Garg ML, British J Nutr, 115(8):1379-1386, 2016)
DOI: https://doi.org/10.1017/S0007114516000258
今回の調査は赤血球膜を用いた機器分析によってEPA/DHA含量を評価しています。食事調査や、直前の食事の影響が大きい血中脂質ではなく、細胞膜を分析対象とした調査によって、オメガ3と糖尿病との関連性が示唆されたことはたいへん興味深い、と思います。しかし、この調査は横断的研究です。横断的研究とは、ある集団のある一時点における疾病の有無と要因の保有状況を調べる研究です。横断的研究手法で得られた今回の調査では、糖尿病の発症とEPA/DHAの低下の時間的関係がわかりません。すなわち、過体重の高齢女性は、EPA/DHA含量が低下したので、糖尿病を発症したのか、糖尿病を発症したために起こる体の変化が過体重の高齢女性にEPA/DHA含量を低下させたのか、等の因果関係が推定できません。これを明らかにするのは、ある事象(糖尿病)とその事象への関与が疑われる要因(EPA/DHA含量)との関係性について、介入(食事)を行い、長期的に観察する縦断的研究を行う必要があります。次回はこの研究グループが行った縦断研究を紹介します。
2023年11月1日
(田中 保:徳島大学)