オメガ博士による最新論文紹介
新たな植物性オメガ3脂肪酸源~遺伝子改変なたね~
オメガ3脂肪酸の供給源として、日本では魚やエゴマ油などが良く利用されていますね。オメガ3脂肪酸の中でもドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)の供給源としては、魚や以前私たちが紹介したシカ肉(2022年1月12日籠橋先生記事へリンク)など動物由来のものが日本ではよく食べられていますね。今回は、植物油の原料として栽培されているアブラナ(ナタネ)を遺伝子改変してDHAやEPAをつくることができるようにしたLC-ω3-rich canolaから採取した油をヒトが摂取したときの血液中の脂肪酸の変化について紹介します。
遺伝子改変LC-ω3-rich canola油を健常人に投与すると赤血球膜中オメガ3脂肪酸は増加した
この試験は、被検者132名を対象とした無作為二重盲検試験で実施されました。健康な被検者を4つのグループ(プラセボ、LC-ω3-rich canola低容量、LC-ω3-rich canola中容量、LC-ω3-rich canola高容量)に分け、2種類の試験が実施されました。1つ目は一回摂取による体内動態試験、2つ目は16週間摂取による有効性と安全性の試験です。
一つ目の試験の結果です。プラセボ群と低容量群と比較して、高容量群では摂取後のDHAの最高血中濃度が高くなり、血中薬物濃度時間曲線下面積(AUC)*も大きくなりました。
二つ目の試験の結果です。16週間摂取後の赤血球膜中DHAは摂取前と比較して、プラセボ群で10%減少、低容量群で11%増加、中容量群で23%増加、高容量群で45%増加しました。赤血球膜中DHAは摂取前と比較して、プラセボ群で16%減少、低容量群で12%減少、中容量群で9%増加、高容量群で28%増加しました。投与期間中不快な味、胸やけ、ゲップ、胃酸の逆流等の症状はなく、その他の有害事象も報告されませんでした。
Transgenic Canola Oil Improved Blood Omega-3 Profiles: A Randomized, Placebo-Controlled Trial in Healthy Adults.
(Xinjie Lois Lin et. al., Frontiers in Nutrition. 2022; 9: 847114.)
DHAやEPAの供給源である魚は、その健康効果から世界中で食べられるようになっています。しかし、気候変動、乱獲による資源の枯渇、マイクロプラスチックなどによる海洋汚染により世界の需要量に対して供給量が不足すると予測されています1)。この論文の中の結論にも書かれているように、植物由来DHA、EPAが重要であるとされています。1~2ヘクタールのLC-ω3-rich canolaから、魚10,000 kg分の量と同じオメガ3脂肪酸量が供給できると報告されています。現在、LC-ω3-rich canolaはオーストラリア、カナダ、USA、ニュージーランドで食品安全性上問題ないことが承認されています。数年後には日本でも承認されるかもしれません。承認されれば、持続可能な食品供給を確保するために、日本の食品産業と消費者にとって新たな可能性が開かれ、日本のDHAやEPAの供給源を大きく変えるゲームチェンジャーになるでしょう。今回紹介した論文で使用されているLC-ω3-rich canolaから採取した油は、摂取すれば体内に取り込まれる事やその安全性がヒトで示されています。ただし、今回紹介したLC-ω3-rich canolaに限らず、油脂には微量元素や精製の過程で生じる副産物も含まれている可能性もあり、16週間以上摂取した場合の安全性については今後も評価が必要であると考えられます。魚やエゴマなどからの摂取に加え新たな供給源としてLC-ω3-rich canolaから採取した油なども上手に利用して、健康長寿を目指しましょう。
*血中薬物濃度時間曲線下面積(AUC):薬や有効成分などを一回摂取したときの血中濃度曲線の面積のこと。どのくらいの血中濃度で、どのくらいの時間、体内にとどまっているかを示す指標で、この面積が大きいほど有効だといわれています。
参考文献
1) Curr Opin Clin Nutr Metab Care. 2015 Mar;18(2):147-54.
2023年10月25日
(片倉賢紀:城西大学薬学部薬科学科)