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オメガ博士による最新論文紹介

新たなオメガ3脂肪酸源としての昆虫食の可能性

オメガ博士

昆虫食が世界中でひろがっています。日本では、群馬県、長野県、岐阜県、宮崎県などのハチの幼虫やイナゴの昆虫を食材として用いる食文化が存在しますが、なじみが薄い方の方が多いかもしれません。世界的には、特に熱帯や亜熱帯地方を中心に、昆虫が主要なタンパク質源として利用されています。昆虫は、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)に貢献し、環境への負荷を軽減するための選択肢として位置づけられています。

昆虫食は一般的にタンパク源として研究されていますが、今回紹介する論文では、コオロギ、イナゴ、カイコの粉末に含まれる脂肪酸の種類とその形態について調べています。

(この論文の内容は、2023年9月に開催された日本脂質栄養学会第32回大会のシンポジウムでも発表されました。)

昆虫食中に含まれる多価不飽和脂肪酸の種類

トノサマバッタ、カイコ、ヨーロッパイエコオロギ、ヨーロッパクロコオロギ、フタホシコオロギの粉末を分析したところ、60~70%はタンパク質で、脂質は4~20%と昆虫の種類により大きく異なりました。脂質は、トリグリセリド、リン脂質、遊離脂肪酸から構成されていました。脂肪酸の種類としては、飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸だけでなく、リノール酸やα-リノレン酸も30~50%含まれていました。脂質の構成や脂肪酸組成は、昆虫の種類により異なっていました。総脂質中のオメガ3脂肪酸(α-リノレン酸等)組成の割合は、トノサマバッタやカイコにおいてそれぞれ43%と34%と高値でした。3種のコオロギでは、総脂質中のオメガ6脂肪酸(リノール酸等)組成が31 - 37%と高く、n-3脂肪酸は数%でした。以上の結果から、昆虫粉末中のリン脂質含量は全卵、大豆、肉、魚に匹敵する程度含まれ、また、生体内では合成できない多価不飽和脂肪酸を含むことから、食用昆虫は、現在食されている脂質源に代わる新規脂質供給源となる可能性があると、筆者らは述べています。

Detection of edible insect derived phospholipids with polyunsaturated fatty acids by thin-layer chromatography, gas chromatography, and enzymatic methods
(Masaru Ochiai, Journal of Food Composition and Analysis, 2021; 99: 103869.)

オメガ博士

現在、動物性タンパク質の供給源である家畜を育てるためには、家畜の体重の数倍もの穀物が肥料として必要であり1)、植物栽培と比較して多くの水を必要とし2)、畜産による温室効果ガス排出など地球環境への負荷をかけているとされています3)。また、動物福祉の観点からも現在の家畜システムには限界があることから、将来の人口増加や環境変化に適応するための代替タンパク質源の開発が盛んに行われています。2013年に国連食糧農業機関(FAO)が昆虫食に関するレポート「Edible Insects」を発表したことで、注目が高まりました。昆虫は乾燥重量の6割程度がタンパク質であり、これは畜産物の3倍以上の高効率のタンパク資源です4)。また、家畜と異なり、水や飼料、土地も少なくて済み、短期間で成長するのが魅力です。

脂質は、ヒトの体を構成する成分としてだけでなく、様々な生体機能の調節に関与することが明らかになっています。脂質は一般的に「油」などの用語を用いて一括りにされ、健康被害の原因のように扱われていることが多いです。オメガ研究所では、これまでオメガ3不飽和脂肪酸の機能性についての論文を数多く紹介してきました。また、日本脂質栄養学会では設立から、食生活における脂質栄養の重要性、特にオメガ3脂肪酸の摂取が、心疾患やアレルギー症状、皮膚障害ならびに精神・神経症状など、多くの疾患や身体の不調を予防するのに役立つことを、基礎研究を通じて明らかにしてきました。今回紹介した論文のように、代替タンパク源に含まれる脂質組成を調べる事は、将来の代替脂質源を検討する上で非常に重要であると考えられます。

参考文献
1) 農林水産省「知ってる?日本の食糧事情~日本の食料自給率・食料自給力と食料安全保障~」(2015年10月)
2) Water Footprint Network
3) FAO, “Tackling Climate Change through Livestock: A global assessment of emissions and mitigation opportunities”, 2013.
4) 佐藤光泰、石井佑基「2030年のフード&アグリテック」(同文館出版、2020年)

2023年10月17日
(片倉賢紀:城西大学薬学部薬科学科)

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