オメガ博士による最新論文紹介
高級食材キャビアでUVケア!?
キャビア(チョウザメの卵)と言えば、世界三大珍味の一角を占める高級食材として有名です。でも実は、最近では化粧品にも広く使われていることをご存じですか?
キャビアは、さまざまな脂肪酸、アミノ酸、ミネラルなどを含む高品質の食品です。特に、魚卵由来の脂質が人間の健康に重要な栄養素であることが報告されて以来、キャビアの脂質組成を分析する多くの研究が報告されています。キャビアには、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)などのオメガ3脂肪酸が多く含まれており、これらの脂肪酸は皮膚の健康に有益である可能性や肌のアンチエイジングの働きを持つなどの報告もありますが、効果のメカニズムはまだ明らかになっていません。
紫外線は、しみやしわなどの発生を促進することがわかっており、こうした紫外線による肌の老化を光老化と言います。紫外線のうち、中波長のUVBは皮膚の表皮部分で多くが吸収されますが、その強さは長波長のUVAの数百倍と言われ、繰り返し浴びることでしみだけでなく、しわへの影響もUVAより大きいとの報告もあります。今回は、UVBによる光老化をキャビアやその成分のDHAが抑えることができるのか?という報告を紹介します。
キャビアの抽出物とそれに含まれる成分のDHAはアディポネクチン*を産生して皮膚のUVBによる光老化を抑える
この研究では、キャビアの抽出物とその成分のDHAに、皮膚のUVBによる光老化を抑える作用(①脂肪細胞の分化を促す、②皮膚の再生や抗炎症作用などに効果のあるアディポネクチンという物質の産生を増加させる、③コラーゲン分解酵素の遺伝子の発現を抑える)があるかどうかを、培養細胞**を使って検証しています。
培養した脂肪細胞に濃度の違うキャビア抽出物を加え6日間培養して、細胞分化を促す転写因子***の遺伝子発現や、アディポネクチンの産生量を測定しました。その結果、100ppm の培地で脂質代謝をうながす転写因子や、アディポネクチンの産生量が高くなりました。また、UVBを照射した皮膚の培養細胞を、キャビア抽出物を加えた培地で24時間培養した結果、コラーゲン分解酵素の遺伝子発現が抑制されました。DHAについて同じように検討を行った結果、脂肪細胞の分化に関連する遺伝子発現量の増加、アディポネクチン産生量の増加、コラーゲン分解酵素の遺伝子の発現の抑制が認められました。
以上の結果から、キャビア抽出物とその成分のDHA が、脂肪細胞の分化に関連する遺伝子の発現や皮膚の再生や抗炎症作用のある物質の産生を増加させ、さらにコラーゲン分解酵素の遺伝子発現を抑制することによって、皮膚の老化を防ぐ可能性が示唆されました。
紫外線による光老化について
Caviar Extract and Its Constituent DHA Inhibits UVB-Irradiated Skin Aging by Inducing Adiponectin Production.
(Kyung-Eun Lee, et al.:International Journal of Molecular Sciences, 2020 May; 21(9): 3383.)
今回、魚卵の中でも高級食材として人気のキャビアが、年々強くなっている紫外線から私たちを守ってくれる可能性についてご紹介しました。今後、光老化防止のメカニズムが、さらに人を対象とした研究で検証され、DHAを含むキャビア抽出物が機能的な化粧品素材になる可能性が期待されます。ますます高級感がアップしそうなキャビアから目が離せません。
*アディポネクチンとは、脂肪細胞から分泌され、動脈硬化を防いだり脂質代謝を促して皮膚の再生や抗炎症作用などに効果があることが報告されている物質です。
**培養細胞(ばいようさいぼう)とは、生体から細胞を人為的に取り出し、人工的な環境で育てる(培養する)細胞のこと。人工的な環境には、寒天等で固められた固体培地などがあります。
***転写因子とは、DNAに結合し、遺伝情報の発現(DNA上にある遺伝情報からたんぱく質を合成すること)を調節するたんぱく質のこと。転写因子のはたらきによって、細胞内ではたんぱく質を必要な時に必要な量、作ることが可能となります。
2023年10月10日
(籠橋有紀子:島根県立大学)