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オメガ3-食と健康に関する委員会

「海洋プラスチックごみ問題」−魚を食べても大丈夫?−

オメガ博士

世界では年々プラスチックの生産が増えており、2020年には世界で4.6億トン生産されました。ところが、そのうちのわずか9%しか適切にリサイクルされていないことが報告されています1)。メディアを通して、ウミガメの鼻にストローが刺さった衝撃的な映像を目にするなど、私たちが普段食べている魚介類にマイクロプラスチック*が含まれているというニュースを聞き、魚介類を食べることに不安を感じている方も多いかもしれません。今回、東京湾でとれるイワシにどれだけのマイクロプラスチックが含まれているかを調査した研究をご紹介します。

東京湾でとれるイワシの消化管から検出されたマイクロプラスチック

東京湾で採取したカタクチイワシ64尾について調査しました。64尾中49尾(77%)の消化管(内臓)からプラスチックが検出され、平均2.3個、個体あたり最大15個が検出されました。プラスチックの多くは、ポリエチレン(52.0%)またはポリプロピレン(43.3%)で、ほとんどは破片(86.0%)の形態でしたが、7.3%はビーズで、その一部は洗顔料に含まれるようなマイクロビーズでした。また、いわしの内臓から検出されたプラスチックの80%が150〜1000μmの大きさで、海面に浮遊するマイクロプラスチックとして報告されているサイズよりも小さいものでした。

今回の観察で、マイクロプラスチックが世界的に海洋生態系に浸透し、魚の消化管からも見いだされることが確認できました。プラスチックは一度海洋環境に排出されると、特に小さいものであれば回収が困難です。そのため、陸上から海洋への排出量を減らすことが先決と考えられます。

Microplastic fragments and microbeads in digestive tracts of planktivorous fish from urban coastal waters.
(Tanaka K, et.al., Sci Rep. 6, 34351, 2016)

オメガ博士

上記の報告より、イワシがプラスチックを餌と間違えて、または餌と区別することができずに摂取しており、内臓からマイクロプラスチックが検出されることは確かなことが分かりました。しかし、私たちが通常摂取するのは消化管ではなく肉質の部分です。魚の内臓を取り除いて食べればリスクは低下します。また、魚に含まれるマイクロプラスチックを私たちが摂取したとしても、体外に便として排出され2)、物理的なリスクは低いと考えられています。

一方、マイクロプラスチックは、海洋中の有害な化学物質やプラスチック製品の製造時に使用される添加物(ノニルフェノールやポリ塩化ビフェニルなど)を吸着・含有し、実験室レベル(実際の海洋環境より高い濃度)では、魚肉中の化学物質濃度が上昇することが確認されています3)。しかし、現時点のマイクロプラスチック汚染状況では、他の食品から摂取する化学物質量と比較してもわずかだと上記の論文でも述べられています。このコーナーでご紹介しているとおり、魚介類の摂取は、私たちの健康に対して多くのメリットを与えてくれています。魚食における小さなリスクと大きなメリットを天秤にかけ、日々の食生活に積極的に魚介類を取り入れていきたいですね。

*マイクロプラスチック:5mm以下の小さなプラスチックのことをいい、1次的マイクロプラスチックと2次的マイクロプラスチックがあります。1次的マイクロプラスチックとは、微小なサイズで製造されたプラスチックのことで、洗顔料や歯磨き粉などのスクラブ剤等に利用されているマイクロビーズなどを言います。排水溝などから海に流出されます。2次的マイクロプラスチックとは、発砲スチロールやペットボトルなど、大きなサイズで製造されたプラスチックが、2次的に細かくなったものを言います。例えば、レジ袋は、風に飛ばされやすく海に流れ込み、早期に劣化してマイクロプラスチックとなりやすいとされています。

参考文献
1) OECD Global Plastics Outlook
2) Yoo JW, et.al., Adaptive micro and nanoparticles: temporal control over carrier properties to facilitate drug delivery. Adv Drug Deliv Rev. 63, 1247-1256, 2011
3) Hasegawa T, et.al., The significance of trophic transfer of microplastics in the accumulation of plastic additives in fish: An experimental study using brominated flame retardants and UV stabilizers. Mar Pollut Bull. 185, 114343, 2022

2023年7月3日
(庄司久美子:女子栄養大学)