オメガ3-食と健康に関する委員会

夫のオメガ3摂取と妊娠中の妻に対する暴力の関連について

オメガ博士

オメガ3には、人に対する暴力的・攻撃的行動を抑制する効果があるとされています。母親から児に対して攻撃性が向けられれば虐待でありますが、以前(2022年4月8日)「妊婦さんのオメガ3脂肪酸摂取と子どもへの虐待」の関連についてご紹介しました。夫から妻に対して攻撃性が向けられればドメスティックバイオレンス(DV)になりますが、はたしてオメガ3は関与しているのでしょうか?

男性のオメガ3脂肪酸摂取量と配偶者に対する暴力のリスク
〜エコチル調査研究結果より〜

現在、環境省が行っている「子どもの健康と環境に関する全国調査(通称:エコチル調査)」のデータを使って、夫(48,065名)の過去1年間のオメガ3摂取と妊娠中の妻へのDV(身体的暴力による怪我の経験、侮辱されたり罵られたりといった感情的虐待)との関連について調べてみました。その結果、全体としては夫がオメガ3を摂っていた方が妻へのDVの割合が減るというものでした。ただ、感情的虐待では、非常に摂取が多い群ではその関連が薄まり、U字状のカーブを描くという結果でした。

夫のオメガ3摂取量と配偶者に対する暴力との関係

Male intake of omega-3 fatty acids and risk of intimate partner violence perpetration: a nationwide birth cohort - the Japan Environment and Children's Study.
(Matsumura, K., Hamazaki, K., Tsuchida A., Inadera H., and Japan Environment and Children's Study (JECS) Group. Epidemiol Psychiatr Sci 31: e45, 2022)

オメガ博士

オメガ3を摂取することで攻撃性が制御できた機序として2つ考えられます。まず有力なのはセロトニン作働性ニューロンの関与です。セロトニンとは、脳内の神経伝達物質のひとつで、精神を安定させる働きがあります。オメガ3の摂取によりこのセロトニン作働性ニューロンを介して攻撃性を制御された可能性が考えられます。もう一つの機序はノルアドレナリンの関与です。ノルアドレナリンは、恐怖や怒り、不安などの精神的な作用と関連があることが知られています。オメガ3が末梢のノルアドレナリンを低下させることはすでに報告されており1)、オメガ3を摂取することで恐らくノルアドレナリンの放出が低下したため、攻撃性の抑制ができたのではないかと考えられます。感情的虐待がU字状のカーブを描く理由は不明ではありますが、そもそもこのような研究は初めてであり、一石を投じるものだと言えます。

参考文献
1) Hamazaki K et al., Clinical Trial Nutrition. 2005 Jun;21(6):705-10. doi: 10.1016/j.nut.2004.07.020.

2023年5月25日
(浜崎 景:群馬大学)