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オメガ3-食と健康に関する委員会

ミツバチもオメガ3脂肪酸が不足するとパフォーマンスが低下する?!

オメガ博士

哺乳動物は、オメガ3とオメガ6系脂肪酸を体内で生成することができず、食事によるオメガ3系脂肪酸の不足やオメガ6とオメガ3のバランスの崩れが脳機能や循環器系疾患に影響することが多く報告されています。

昆虫は、長鎖多価不飽和脂肪酸を微量しか持っていないため、今まで多価不飽和脂肪酸の影響はそれほど研究されていませんでした。 しかし、ミツバチも、摂取するオメガ6とオメガ3のバランスが、コロニーの維持や成長に大きく影響することがわかってきました。

オメガ3欠乏食はミツバチの学習能力を低下させる

オメガ3系脂肪酸が少ない餌と豊富な餌で、ミツバチの下咽頭腺の発達や、嗅覚・触覚の反応性を評価しました。 オメガ3系脂肪酸が少ない飼料では、下咽頭腺のサイズは減少し(図)、嗅覚や触覚の感受性が大幅に低下しました。 これは、コロニー内の養育の質が低下したり、餌の採取量が減少するなど、コロニー縮小に繋がります。

オメガ 3系脂肪酸の不足による感覚器の機能低下は、スクロース(花の蜜)感受性の低下ではなかったことから、味覚ではなく、嗅覚や触覚の感覚器の感度に起因するもののようです。 また、食餌性脂肪酸の影響は、頭部(脳)ではなく、体部の脂肪酸組成を大きく変化させたことから、ミツバチの感覚刺激は身体部の脂肪酸による影響が大きいと考えられました。

オメガ3系脂肪酸が少ない飼料(Cn,Se)と豊富な飼料(Om,Pn)を摂取したミツバチへの影響

Omega-3 deficiency impairs honey bee learning.
(Arien Y, Dag A, Zarchin S, Masci T, Shafir S., Proc Natl Acad Sci USA, 112:15761-15766, 2015)

オメガ博士

この論文では、オメガ3系脂肪酸が少ない飼料では、下咽頭腺が小さくなることを示しました。養育バチの下咽頭腺からは、幼虫や女王バチに与える蜂乳やローヤルゼリーが分泌され、働きバチの下咽頭腺からは、花の蜜であるスクロースをグルコースとフルクトースに分解する酵素が分泌されます。 ミツバチのコロニーにとって、下咽頭腺はとても重要な分泌腺です。

ミツバチは、蜂蜜やローヤルゼリーの生産だけでなく、植物や農作物の受粉の媒介のために、重要な昆虫です。 多様な植物種のある野原では、脂質濃度や脂肪酸組成(特に、リノール酸とα-リノレン酸)の異なる花粉を収集できます。 しかし、広大な農地での特定された農作物の栽培は、採取する花粉も一定になりミツバチの栄養が偏ります。 また、単一化された農業では農薬の使用量も増えるので、さらにミツバチは脆弱化し個体数が減って、コロニーが縮小しているようです。 西洋人の食生活におけるオメガ6/オメガ3比の低値から高値への変遷は、多くの病気やメンタルヘルスの低下の原因の一つとされています。 このような現象はミツバチの世界でも起こっているようで、農業の単一栽培、特に、アーモンド(バラ科)やユーカリの花粉はオメガ6/オメガ3比が高いので、今回紹介した実験結果をたどる可能性があります。 ミツバチは、世界の農作物生産の1/3に関与しているという報告もあるので、ミツバチのコロニーが健全な状態で維持されるよう、栄養源である花粉の脂肪酸バランスを見直して、養蜂の飼料を調整する必要があります。

<豆知識: ミツバチとショウジョウバエの脳脂肪酸組成は異なる>

昆虫は、長鎖 多価不飽和脂肪酸を微量しか持っていないと報告されていますが、ミツバチの脳は、α-リノレン酸レベルが高く、DHAが検出されないのはα-リノレン酸からDHAを合成する酵素が欠損していることが考えられます。 また、ショウジョウバエの脳からは、α-リノレン酸もほとんど検出されないので、これらの違いは食餌によるものと考えられます。

長鎖多価不飽和脂肪酸:分子構造上、リノール酸やα-リノレン酸等の多価不飽和脂肪酸よりさらに炭素の数や二重結合の数の多い脂肪酸のこと。オメガ6系ではアラキドン酸、オメガ3系ではEPAやDHAが含まれる。

2023年4月17日
(原馬明子、守口 徹:麻布大学)