オメガ博士による最新論文紹介
中・高齢者のω3系脂肪酸摂取と情動・認知機能(2)
一般的に、DHA・EPAは空気に触れると極めて酸化劣化しやすく魚臭が発生するため、その摂取形態は魚介類やサプリメントに偏重しているのが現状です。最近になって高い酸化安定性を付与することで魚臭を抑えたDHA・EPA油脂素材が開発されました。この素材は、一般食品に添加しても食品の風味を損なわず、手軽に美味しく食事からDHA・EPAを摂取することを可能としました。このDHA・EPA油脂素材を添加した乳飲料を用いて、健常高齢者の記憶機能への効果を調べた論文をご紹介します。
記憶機能に及ぼす一日当たり297mgのDHA摂取の効果に関する検証
高い酸化安定性を付与し、魚臭を抑えたDHA・EPA油脂を添加したDHA強化乳飲料(DHA群)と、大豆油でカロリーが同じになるように調節したプラセボ乳飲料(プラセボ群)を用い、健常高齢者を対象としたヒト介入試験を実施しました。各乳飲料を12か月間摂取いただいた結果、DHA群ではプラセボ群に比べて赤血球膜のDHAおよびEPAレベルが増加していることが分かりました。脳機能のうち、記憶機能は加齢に伴って低下していきますが、DHA群では遅延再生という記憶機能(思い出す力)が維持増進されていることが分かりました(下図上段、文献1)。またデータを再解析(サブ解析)した結果、骨破壊に関連する血中マーカーがDHA群でより顕著に抑制されていたことが新たに分かりました(下図下段、文献2)。高齢者では骨破壊が進むことで骨折や骨粗鬆症リスクが上昇します。今回の結果から、DHAの摂取は骨折や骨粗鬆症リスクを軽減する可能性が示されました。
文献1) Beneficial effects of docosahexaenoic acid-enriched milk beverage intake on cognitive function in healthy elderly Japanese: A 12-month randomized, double-blind, placebo-controlled trial.
(Ichinose T, Kato M, et al., Journal of Functional Foods, Volume 74,104195, 2020)
文献2) Intake of docosahexaenoic acid-enriched milk beverage prevents age-related cognitive decline and decreases serum bone resorption marker levels.
(Ichinose T, Matsuzaki K, et al., Journal of Oleo Science, 70(12): 1829-1828, 2021)
この研究成果は、DHAの継続的な摂取が脳機能と骨の健康の維持が密接に関連していることを示しました。このことから我々は、DHAが高齢者の疾患予防や生活の質向上につながる非常に重要な食品成分の一つであると考えています。また、魚臭いのしないDHA・EPA油脂素材であるがゆえに一般食品への添加を容易にすることから、“DHAとEPAをどんな食品からも摂取できる”というように選択肢を大きく広げることを可能にしました。今後も、各社の企業開発努力によって、より良い食素材が我々に提供され続けることで、個々の食生活の質はさらに向上していくことでしょう。
2022年10月17日
(橋本道男:島根大学)