日本脂質栄養学会

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オメガ博士による最新論文紹介

中・高齢者のω3系脂肪酸摂取と情動・認知機能(1)

オメガ博士

魚油に多く含まれるω3系脂肪酸の機能性は多岐にわたり、胎児から高齢者に至るあらゆる世代の方々に対してその機能性には関心が高まっています。しかしながら、近年、我が国全体の魚摂取量の低下が際立ち、その低下にともなう健康への影響、とりわけ乳幼児と高齢者の脳機能への影響が危惧されています。そのために、魚油の代替品、あるいは、無臭の魚油成分を開発することが切望されています。今回、魚油の代替品に関する最近のヒト介入試験の事象を紹介します。

中年者と高齢者の精神・神経機能に及ぼすエゴマ油摂取の効果に関する検証

エゴマ油にはω3系脂肪酸であるα-リノレン酸(LNA)が約60%含まれ、この脂肪酸は、生体内で魚油の主成分であるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)に変換されることから、「畑の青魚」ともいわれ、近年、その機能性については注目されています。しかしながら、ヒトの場合、ラットなどの齧歯類と異なり、α-リノレン酸からEPA・DHAへの変換は十分でありません。今回、中・高年齢者を対象として、エゴマ油を摂取した時の脳機能への影響を調べました。

健常な勤労者(平均年齢48歳)と在宅高齢者(平均年齢71歳)に、エゴマ油を1日当たり7mL、12か月間、摂取していただいたところ、勤労者では赤血球膜のα-リノレン酸とEPAレベルが増加し、うつ・やる気が改善しました(下図上段、文献1)。在宅高齢者では、赤血球膜のα-リノレン酸と血清のBiological Antioxidant Power(BAP:生物学的抗酸化能、以下抗酸化能)の増加にともない前頭葉機能が向上して、やる気がもたらされることがわかりました(下図下段、文献2)。

オメガ3脂肪酸欠乏の母親マウスにおける仔回収行動

文献1) Twelve-month Studies on Perilla Oil Intake in Japanese Adults-Possible Supplement for Mental Health.
(Hashimoto M, Matsuzaki K, Kato S, et al., Foods. 9(4):530, 2020. PMID: 32331363)
文献2) Perilla Seed Oil Enhances Cognitive Function and Mental Health in Healthy Elderly Japanese Individuals by Enhancing the Biological Antioxidant Potential.
(Hashimoto M, Matsuzaki K, Hossain S, et al., Foods. 10(5):1130, 2021. PMID: 34069601)

オメガ博士

中・高年齢者において、ω3系脂肪酸による抗うつ作用については、支持する多くの報告があります。また、異論もありますが、DHAによる高齢者の認知機能維持・改善効果は多くの科学的エビデンスにより支持されています。高齢者は加齢に伴い脳機能が低下しますが、その主な原因のひとつに抗酸化能の低下があります。エゴマ油にはα-リノレン酸以外にも、ロスマリン酸など、強力な抗酸化物質が含まれることから、エゴマ油摂取により抗酸化能が上昇し、高齢者の認知機能を維持することは可能であると思われます。エゴマ油摂取はα-リノレン酸だけではなくEPAを増加させます。また、高齢者を対象としたヒト介入試験では、エゴマ油と野菜・果実に多く含まれるポリフェノールを一緒に摂取すると、赤血球膜のα-リノレン酸・EPAだけではなくDHAレベルも増加することが報告されています1)。ヒトでのさらなる検証が必要ですが、エゴマ油は魚嫌いなヒトへの魚油の代替品として推奨出来ると思われます。

参考文献
1) Hashimoto M. et al., Food and Function, 62:1502-1520, 2022.

2022年10月3日
(橋本道男:島根大学)

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