オメガ博士による最新論文紹介
オメガ3脂肪酸の心血管の健康に対する効果
α-リノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)は分子構造的にはそれぞれ異なる脂肪酸ですが、いずれもオメガ3脂肪酸の仲間です。α-リノレン酸は植物由来であり、あまに油やえごま油に多く含まれます。一方、EPAとDHAは魚に含まれます。このように給源の異なる2種(あまに油と魚油)のあぶらを、冠動脈心疾患を伴う2型糖尿病の患者にそれぞれ補給した時の心血管リスクへの影響について、海外で行われた研究を紹介します。
冠動脈心疾患を伴う2型糖尿病患者におけるあまに油と魚油摂取による心血管リスクに対する影響:無作為化二重盲検プラセボ対照試験*より
この研究では、冠動脈心疾患を伴う2型糖尿病患者の心血管リスクに対するあまに油と魚油の補給の効果を比較しました。中高年男女90人の研究参加者は、ランダムにそれぞれ30名ずつ、あまに油1g(α-リノレン酸を400 mg含む)群、魚油1g(EPAを250 mg、DHAを150 mg含む)群、プラセボ(パラフィン)群とし、1日2回、12週間継続摂取しました。また、採血は試験開始前と後(12週間後)の2回行いました。
その結果(図)、プラセボ群と比較して、あまに油群と魚油群では、血清インスリンの有意な減少、血漿総亜硝酸塩、総抗酸化能の有意な増加が観察されました。さらに、プラセボ群と比較してあまに油群では血中の高感度C反応性たんぱく質(高感度CRP)の有意な減少が、また、あまに油群およびプラセボ群と比較して魚油群では血中グルタチオンの有意な増加がみられました。しかしながら、あまに油及び魚油摂取は、血糖コントロール(空腹時血糖値、インスリン抵抗性指標)や脂質プロファイル(中性脂肪、コレステロール等)の他の指標には影響を与えませんでした。
以上をまとめると、冠動脈心疾患を伴う糖尿病患者の血清インスリン、血漿総亜硝酸塩、および総抗酸化能レベルに対する12週間のあまに油と魚油摂取の有益な効果を明らかにしました。さらに、プラセボと比較してあまに油摂取では、高感度CRPが低下しました。この研究は、インスリンの減少と総亜硝酸塩と総抗酸化能の増加に対するあまに油の効果が魚油と同様であることを示唆しています。
A comparison between the effects of flaxseed oil and fish oil supplementation on cardiovascular health in type 2 diabetic patients with coronary heart disease: A randomized, double-blinded, placebo-controlled trial
(Raygan F, Taghizadeh M, Mirhosseini N, Akbari E, Bahmani F, Memarzadeh MR, Sharifi N, Jafarnejad S, Banikazemi Z, Asemi Z. Phytother Res.,?33: 1943-1951, 2019.)
この研究では、血漿中の亜硝酸塩は、血管を弛緩させることで血圧降下作用を有し、血小板凝集を抑制し血栓症の予防効果があるとされる一酸化窒素の指標として測定されたと考えられます。高感度CRPが高いと炎症反応が高まった状態を示します。グルタチオンは、すい臓からのインスリン分泌に関係し、グルコース恒常性の維持に重要な機能を果たすとされており、また、抗酸化能とも関係します。
この研究では、あまに油や魚油の摂取が、これらの炎症や酸化ストレスの指標に対して良い影響を与えており、炎症と酸化ストレス低下を介して、糖尿病と冠動脈疾患イベントを減らす可能性が示唆されました。
一方、以前の観察研究と臨床試験では、オメガ3脂肪酸の抗炎症作用と抗酸化作用が示されていましたが、その結果は必ずしも一貫しているとは限りません。研究の条件(研究参加者数及び特性、摂取量及び期間等)が変わると、結果には様々な形で影響してきます。紹介した論文の参加者は、冠動脈心疾患を伴う2型糖尿病患者であり、そのまま日本人の一般集団に当てはめることはできません。さらなる研究が必要とされます。
*無作為化二重盲検プラセボ対照試験
無作為化とは、対象者をランダムに各群に振り分けること。盲検とは、研究参加者がどの群に入ったかわからない状態にすることをいい、さらに、二重盲検とは、試験結果を直接観察する研究者もどの群がどの処方を受けているかわからない状態にすることです。プラセボ対照試験とは、試験油補給群だけでなく、対照群を置き、対照群にはプラセボ(偽油)を補給する試験方法のことです。無作為化二重盲検プラセボ対照試験とは、これらを全て兼ね備えた研究手法であり、つまり、偏りがないように研究参加者を振り分け、研究参加者や実施者の判断、行動、心理などの影響を可能な限り取り除いた試験となっています。
2021年1月20日
(川端輝江:女子栄養大学)