オメガ3-食と健康に関する委員会

オメガ3で筋活!

オメガ博士

我が国は、「日本は世界一の長寿国」・・・理由は様々考えられますが、日本独自の食文化も要因と言えるでしょう。現状では、平均寿命と健康寿命の差が約8年〜10年間あり、この期間は何らかの機能障害や要介護が必要となります。独り暮らしを経験されたことのある方であればご承知でしょうが、風邪などで数日寝込んでいるだけで心細く、寂しい思いをします。いつまでも健康で笑顔あふれる自立生活を過ごせる社会を持続させるためには、その妨げになっている要因の1つに挙げられる筋力低下による歩行困難や寝たきりを防ぐことが重要になってきます。今回は、その一助になるかもしれないという研究結果をご紹介します。

筋組織におけるオメガ3系脂肪酸の役割(総説)

筋繊維は大きく「速筋」と「遅筋」の2つに分かれています。「速筋」は、とっさのつまずきなどを支えるような瞬発的に働く筋肉(一瞬の力)で、「遅筋」は、マラソンなどに必要な持久力に優れたゆっくり収縮する筋肉(一定の力)です。ヒトの筋肉を速筋と遅筋に明確に区別して評価することが難しいことから、オメガ3不足群と、十分なオメガ3を摂取した群のマウスで検討しています。

実験結果では、オメガ3系脂肪酸の摂取は、加齢に伴う速筋組織の萎縮を抑制し、高齢者の自立生活を助ける可能性があるということが示されました。

① 足を動かさない場合の筋萎縮のオメガ3の影響は?

十分なオメガ3摂取群マウスの「速筋」は、不足群マウスに比べて萎縮の程度が小さかった。
→ 十分にオメガ3を摂取していると、足を動かさない場合でも「速筋」の筋量は減少しにくい。
また、足を動かした場合は、十分にオメガ3を摂取していると、運動刺激により、「速筋」、「遅筋」の両方の筋量を増加させた。

妊婦のオメガ3摂取量と乳児への虐待

② 重力がかからない場合の筋萎縮の影響は?

運動刺激がないと「遅筋」「速筋」の両方の筋量が減少し、特に「遅筋」の減少は激しかった。しかし、十分なオメガ3摂取群のマウスでは不足群マウスに比べて、「速筋」の筋量の減少を緩やかにした。

老齢期の健康寿命に欠かせない自立生活に影響を与える筋重量の低下、特に速筋に着目すると、オメガ3系脂肪酸は、速筋組織の減少に対して抵抗性を示すことができました。また、オメガ3系脂肪酸が運動刺激によって、筋タンパク合成を促進していることも示されました。しかし、高齢化社会の中で、食生活の欧米化は留まることを知らず、慢性的なオメガ3系脂肪酸の摂取不足が憂慮されるところです。加えて、介入試験への応用やその詳細なメカニズムの解明が待たれるところです。

筋組織におけるオメガ3系脂肪酸の役割.守口徹、原馬明子,オレオサイエンス,22 (7), 343-348, (2022)

オメガ博士

今回、オメガ3系脂肪酸と筋肉の関係をご紹介させていただきました。

高齢者の寝たきりになる原因は病気だけでなく、転倒による骨折も要因のひとつです。その対策や予防として、体を支えるための「速筋」が必要であると専門家も言及しており、健康寿命の延伸は自立生活が前提になります。オメガ3系脂肪酸が筋肉へ良い影響を与えることができれば、社会課題解決の一助になるでしょう。今後の更なる研究による解明に期待したいと思います。

この他に、オメガ3系脂肪酸は、激しい運動を伴うアスリートにおいても、血流改善、血圧安定による酸素運搬力の向上、筋肉痛や疲労緩和などの研究もされており、オメガ3系脂肪酸の新たな有用性として注目されています。

2022年9月5日
(長坂泉紀:太田油脂株式会社)