オメガ博士による最新論文紹介
オメガ3脂肪酸と男性不妊との関係はいかに?
2019年に生まれた赤ちゃんは865,239人でしたが、このうち生殖補助医療により生まれた赤ちゃんは60,598人で全体の7%、14人に1人の割合でした。この割合は、2007年には1.8%でしたが、近年急激に高率になってきています(日本産科婦人科学会ARTデータブック2019年)。不妊とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間(約1年)妊娠しないことと定義されています。不妊を心配したことがある夫婦の割合は2015年には35.0%となっています(2015年社会保険・人口問題基本調査)。
不妊の原因は、女性だけにあるのではなく、WHOによれば約半数は男性に原因があるとされています。不妊治療には、排卵日を予測して性交のタイミングを合わせる方法(タイミング法)、薬物投与による排卵誘発法、精液を調整し子宮に注入する人工授精、体外受精、顕微授精などがあります。これらの不妊治療は、令和4年4月から保険適用になりました。しかし、実際には仕事と治療を両立できずにいるカップルが34.7%存在しています(厚生労働省 平成29年度 不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査)。
男性不妊に関する食事中に含まれる脂肪酸の影響についての総説がEsmaeiliらにより報告されており、今回はその概要をお知らせ致します。
食事中の脂肪酸が精子の質に影響する(総説)
哺乳類の精子は、多価不飽和脂肪酸(PUFA)の割合が高いことが特徴です。精子の脂肪酸組成を調べた結果、1)生殖能力を正常に持つ男性と、不妊の男性の脂肪酸組成には違いがあること、2)食事中の脂肪酸が精子の脂肪酸組成だけでなく精子の質と量にも影響を及ぼすことが明らかになっています。ドコサヘキサエン酸(DHA)とパルミチン酸は、ヒト精子細胞においてそれぞれ主要なPUFAおよび飽和脂肪酸です。精子の頭部には尾部に比べて高濃度のDHAが含まれています。
食事中の脂肪酸は精子の脂肪酸組成に影響を与えますが、その中でも特に食事中のオメガ3 PUFAの影響が最も大きい様です。精子の質の改善は、食事中のオメガ3を4週間以上補充した場合に、摂取期間依存的および用量依存的に生じることがわかりました。この様な食事中のオメガ3 PUFAの良好な効果は、精子脂肪酸の平均融点の調節、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γの発現調節、精子形成、抗アポトーシス作用、エイコサノイド形成、ホルモン活性などがその原因ではないかと推定されています。
Dietary fatty acids affect semen quality: a review.
(Esmaeili V, Shahverdi AH, Moghadasian MH, Alizadeh AR: Andrology., 3 (3): 450-61., 2015)
日本人の若年男女の魚介類の摂取量が近年減少しており、DHAをはじめとするオメガ3の摂取が不足しています。精子細胞を形成する主要な脂肪酸であるDHAを増やすことが、精子の質を高め、不妊問題を安全に容易に解決する手段になる可能性が考えられます。次回は、高純度のDHAサプリメントを摂取した場合に精子機能に与える影響についてご紹介します。
2022年7月25日
(押田恭一:大幸薬品株式会社)