オメガ博士による最新論文紹介
歯周病治療におけるω3脂肪酸の役割
2016年における日本の平均寿命(0歳における平均余命)は男性80.98歳、女性87.14歳と世界的に見ても長寿の国です。しかし、この2016年の時点では、平均寿命とヒトが健康に暮らしている健康寿命の差、いわゆる「不健康な期間」は、男性で約9年、女性では約12年でした。結構な長い期間、クオリティーの低下した状態で生活を送ることになります。
この期間を短縮させる方法として口腔機能が健全であることが指摘されています。つまり、8020運動(80歳になっても自分の歯を20本以上保とういう運動)に代表されるように歯を維持することはとても重要です。もし、自分の歯が失われると咀嚼力が低下し、しっかりと食べ物を噛めないことから、消化器に負担をかけてしまいます。そればかりか脳の活動低下をもたらし、認知症の発症や重症化に影響しているとされています。
特に歯を失う原因として、歯槽膿漏に代表される歯周病があげられます。歯周病は、心臓病や糖尿病、脳血管障害など多くの全身疾患とも関わっていることが分かってきました。また、高齢者が気を付けないといけない誤嚥性肺炎の原因菌は、歯周病菌です。
今回は、歯を失わないため、更に色々な疾患を発症しないための歯周病対策としてのω3脂肪酸の役割を紹介します。
歯周病治療におけるオメガ3脂肪酸の補助的使用の役割
-システマティックレビューとメタアナリシス-
DHA、EPA、歯周炎など今回の目的となるキーワードをPICOモデル「①どのような患者に(Patient)、②どのような評価・治療をしたら(Intervention)、③何と比較して(Comparison)、④どのような結果になるか(Outcome) ?」という4つの要素に定式化し、文献検索を行いやすいように整理しました。
そして、データベースとしてPubMed、 Cochrane library、 LIVIVOを使用しました。採用する基準として、1. 英語、2. 無作為化、臨床試験、3. 縦断的研究、4. 臨床研究、5. 非外科的および外科的歯周治療におけるオメガ-3脂肪酸の使用。除外する基準として1.歯周炎を有しないもの、2.歯肉炎、3.症例報告、4.書籍、としました。
この結果、対象となる論文が8報見つかりました。ω3脂肪酸を使用して3ヶ月後の結果として、全ての試験において、ω3脂肪酸は、clinical attachment level(歯肉が歯に付着する位置)、Pocket depth(歯周ポケットの深さ)に有意な改善効果を示しました。また、6ヶ月後においても4つの試験でω3脂肪酸の有意な効果が認められました。
歯周病を抑える機序としては、様々な炎症性疾患、特に歯周炎と関連しているIL-1βの産生を減少し、リポオキシゲナーゼ変換回路によるアラキドン酸の代謝を介し抗炎症性脂質メディエーターであるリポキシンの産生を増加することなどが指摘されていました。
これらの結果から、ω3脂肪酸は,治療後の歯周病治癒にプラスの影響を与えることが示唆されました。慢性歯周炎患者には、標準的な歯周病治療とともに、ω3脂肪酸を食事に取り入れるよう指導する必要があると考えます。
Role of adjunct use of omega 3 fatty acids in periodontal therapy of periodontitis. A systematic review and meta-analysis.
(Chatterjee D, Chatterjee A, Kalra D, Kapoor A, Vijay S, Jain S, J Oral Biol Craniofac Res. 2022;12(1):55-62.)
ω3脂肪酸の抗炎症作用は、歯周病治療にも役立つことが指摘されました。健康な口腔状態(欠歯が少ないこと)を良好に保つことは、青み魚をしっかりと食べることで維持される可能性が示唆されます。卵が先か?鶏が先か?もとい、青み魚を食べるから歯周病が改善されるのか?歯周病がないから青み魚が食べられるのか?いずれにしても定期的に食卓に青み魚が乗ることは重要そうです。
2022年6月27日
(大久保剛:仙台白百合女子大学)