日本脂質栄養学会

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オメガ博士による最新論文紹介

魚の消費を拡大するには、家庭での料理の作り手となる方の意識改革が重要

オメガ博士

DHAやEPAなどn-3系脂肪酸が体に良いことは、様々な研究成果に基づいて数多く報告されています。しかし、実際に我々がその有効性を享受するためには、n-3系脂肪酸を摂取しなければなりません。そこでn-3系脂肪酸を効率よく摂取するのに一番便利な方法は魚(青み魚など)を食べることです。

しかし、農林水産省「食料需給表」によると、一人当たりの魚介類の年間消費量は、ピーク時の2001年(40.2kg)に比べて2016年(24.6kg)では、約40%減少しています。このことは、単純に食卓に魚料理の登場頻度が少なくなっていることを意味しています。

食卓に魚料理が頻繁に登場させるためには、どのようなことをすればよいのでしょうか?誰が家族の食事を作ってくれるのでしょうか?家族の食事を作ってくれるヒトが、「魚料理を作りたいな」と思ってもらうことが非常に重要なポイントになります。

そこで、今回は、家庭での料理の作り手の皆さんに魚料理を作りたいと思ってもらうための方法について検証したいと思います。

主婦のトランスセオレティカルモデル(行動変容段階モデル)に基づく魚の消費傾向

保健所を受診した主婦を層別サンプリング法によって383人選抜し、魚の消費量に関するアンケート調査を実施しました。その結果、トランスセオレティカルモデル(行動変容段階モデル) * の5段階で分類すると11.7%が前熟考(無関心)期、3.9%が熟考(関心)期、13.6%が準備期、7.3%が実行期、63.4%が維持期にあることが分かりました。

その結果、週に1~2食の魚を食べるとする主婦の皆様の変化していく段階とトランスセオレティカルモデルにおける構成要素は有意な関係を示しました。前熟考期から維持期への変化段階を経ることで,意思決定バランス,自己効力感,変化のプロセスが有意に上昇し、実行されていくことが分かりました。

このことから、主婦の皆様に対して魚を食べることが大切であるという教育的介入をプログラムする場合、Perceived benefits(魚が非常に有益であるという知識)とSelf-efficacy

(自己効力感:今回の場合は、食卓に魚料理を出そうとする行動を選択し、かつこれを遂行するための能力を自らが持っているかどうか認知するための言葉)を重視していくことが大切だと示唆されました。

トランスセオレティカルモデル

Fish consumption based on transtheoretical model among housewives.
(Davoodi SH, Agah B, Aghamolaei T, Ghanbarnejad A, Dadipoor S and Moradabadi AS, J Educ Health Promot. ;7:25., 2018)

オメガ博士

魚料理を食卓に登場させるには、きちんと科学的根拠に基づいて家庭での料理の作り手の方に「魚」の有効性を説明することが重要になってきます。そして、魚料理を作りことに抵抗を持たせないように、「魚が捌ける」「魚を安価に買える」「魚の入手が簡単」などとリンクさせていくことが大切になってきます。つまり、料理を作る皆様が「魚料理は、難しくない!やれば出来る!」と思ってもらうための教育も重要ということになります。

* トランスセオレティカルモデル(行動変容段階モデル)
1980年代前半に禁煙を行うために開発されたモデルですが、現在では、食事や運動などいろいろな健康関連の行動について研究と実践が行われています。行動変容ステージモデルでは、人が行動(生活習慣)を変える場合は、「前熟考期」→「熟考期」→「準備期」→「実行期」→「維持期」の5つのステージの変遷を辿ると考えています。行動変容のステージを前進させるには、対象者が自分の今いるステージを把握し、それぞれのステージに合わせた働きかけをすることが重要です。

前熟考(無関心)期6ヵ月以内に行動変容に向けた行動を起こす意思がない。
熟考(関心)期6ヵ月以内に行動変容に向けた行動を起こす意思がある。
準備期1ヵ月以内に行動変容に向けた行動を起こす意思がある。
実行期行動変容を起こしているが、その継続が6ヵ月未満である。
維持期行動変容の継続が6ヵ月以上である。

2022年5月31日
(大久保剛:仙台白百合女子大学)

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