日本脂質栄養学会

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オメガ博士による最新論文紹介

妊婦さんのオメガ3脂肪酸摂取と子どもへの虐待

オメガ博士

オメガ3には、人に対する暴力的・攻撃的行動を抑制する効果があるとされ、また、動物実験でもオメガ3が欠乏した母マウスでは仔マウスへの関心が薄くなってしまうことがわかっています(2022年3月25日「オメガ3脂肪酸が不足すると、母性のスイッチが入りにくい?!」)。そこで、子供への虐待はどうなのか?今回は環境省が行っている「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」からの報告を紹介したいと思います。

妊娠中のオメガ3脂肪酸摂取と乳児への虐待リスク:全国出生コホート-子どもの健康と環境に関する全国調査

母親による生まれた子どもへの虐待は、生後1ヶ月または生後6ヶ月時の自己申告式の質問票への回答から、身体的虐待関連として「叩く」「激しく揺さぶる」頻度、ネグレクト関連として「家に一人で放置する」頻度から評価しました(約9万人)。また、妊婦さんのオメガ3摂取量は、妊娠中に食事調査票を使って調べており、解析の際には少ない方から5等分にして並べ、摂取量が一番低い群と比べて、虐待するリスクを統計的に解析してみました。その結果、妊娠中のオメガ3の摂取量は、生後1ヶ月と6ヶ月時において、赤ちゃんを「叩く」「激しく揺さぶる」「家に一人で放置する」行為が少ないことと関連していることがわかりました。

妊婦のオメガ3摂取量と乳児への虐待

Omega-3 fatty acid intake during pregnancy and risk of infant maltreatment: a nationwide birth cohort - the Japan Environment and Children's Study
(Matsumura K, Hamazaki K, Tsuchida A, Inadera H, Japan Environment and Children's Study (JECS) Group. Psychol Med., 25: 1-10, 2021.)

オメガ博士

妊娠中のオメガ3摂取と虐待の軽減が関連しているのか、その機序は明らかではありませんが、今までの研究より3つの理由が考えられます。1つ目は、ストレス反応の低減効果です。オメガ3は、ノルアドレナリン、ドーパミンなど情動に関わる神経を調節すると共に、自律神経の高ぶりを落ち着かせ、ストレス反応を抑制する効果があります。2つ目は、抑うつ症状の軽減です。以前ご紹介したように(2021年3月30日「魚食・オメガ3脂肪酸摂取と妊婦さんの抑うつ」)、オメガ3には抗うつ作用があることから、母親による生まれた子どもへの虐待行動の危険因子の一つである産後うつ症状が軽減されることで、母親の精神状態が安定し、虐待が減少した可能性があります。3つ目は、生まれた子ども自身の行動変化を介したものです。子どもがオメガ3を摂取することにより、子どもの攻撃的・反抗的な行動や多動性が軽減することが知られています。胎盤を介して胎児にオメガ3が移行し、生まれた子どもの行動が落ち着いたものになり、その結果母親が育てにくさを感じることが減り、虐待が軽減したのかもしれません。

2022年4月8日
(浜崎 景:群馬大学)

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