日本脂質栄養学会

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オメガ博士による最新論文紹介

アルコール依存症にはオメガ3系脂肪酸が必要!?

オメガ博士

日本でのアルコールの摂取は、2016年をピークに年々減っており、特に、若年男性の習慣的な飲酒は減少する傾向にあります。 一方、女性の飲酒は増加していて、男女差が小さくなってきています1)。 日本のアルコール依存症者は成人の1%程度と少ないですが、世界ではベラルーシやハンガリー、ロシアなどの寒い地域で10%と高値になっており、WHOは 2018年に、「欧米などの高所得国で過度な飲酒が深刻な健康問題をもたらしている」とも警告しています2)

アルコール依存症の薬理学的治療に承認されている薬は3種類と少なく、飲酒によって嫌悪を感じさせたり、飲酒の欲求、欲望を抑えるものです。 しかし、これらの効果は限られており、1年以内に40~60%で再発するとも言われています。 アルコールを含む薬物依存性の治療は難しいのが現状です。

アルコールや薬物などの依存症者は、脳神経細胞の損傷や脳委縮により、行動障害の症状が出てきます。 また、このような人たちは食事のバランスが崩れがちで、食品素材の少ないオメガ3脂肪酸は摂取しにくい状況が十分考えられます。 実際、アルコール依存症者の血漿DHAレベルは低く3)、動物モデルでは脳DHAの低下も報告されています。 よって、脳ではDHAが不足し、それにより代謝の乱れや異常が起こることが考えられます。 そこで、慢性アルコール依存症患者を対象として、脳へのDHA取り込みを見た論文を紹介します。

慢性アルコール依存症患者におけるDHAの脳内への取り込みと血流量の増加
-脳萎縮を補正したポジトロン断層法研究-

1週間禁酒した慢性アルコール依存症患者15名とアルコール依存症ではない健常な対照者22名に、安定同位体でラベルしたDHAを静脈より注入して、血流から脳へのDHA取り込みをPETにより測定しました。その結果、脳の部位によって違いはあるものの、対照者に比べて10~20%の上昇が確認されました([11C]DHA K*)。 また、脳の血流量(rCBF)も脳部位により7~34%と幅がありましたが、対照者と比べて慢性アルコール依存者で上昇していました。

Brain docosahexaenoic acid [DHA] incorporation and blood flow are increased in chronic alcoholics: a positron emission tomography study corrected for cerebral atrophy.
(Umhau JC, Zhou W, Thada A, Demar J, Hussein N, Bhattacharjee AK, Ma K, Majchrzak-Hong S, Herscovitch P, Salem Jr N, Urish A, Hibbeln JR, Cunnane SC, Rapoport SI, Hirvonenet J; PLoS One. 2013; 8: e75333.)

オメガ博士

ラット脳をスライス培養してアルコール暴露によりおこした神経損傷は、DHA添加により抑えられることが確認されています4)。 また、慢性的にアルコール暴露したマウスに魚油を与えると、アルコール暴露によって誘発された側坐核*の異常な樹状突起が有意に減少したという報告もあります5)。 アルコール依存症者の脳は、アルコールにより損傷を受けた神経細胞を修復するために、脳へのDHA供給を増加させようとして、血流を上昇させていることが示唆されます。

2020年からのコロナ禍においては、イギリスの国家統計局(ONS)ではアルコールに関連した死亡が急増したという報告もあります。 ロックダウンや緊急事態宣言などで外出できない状態が長くつづくと、ストレス発散も加わり自宅で摂取するアルコール量が増えます。 アルコールによるダメージを保護するためにも、オメガ3脂肪酸の摂取は大事ですね。

*: 側坐核 報酬や快感、恐怖などドパミンの関わる前脳の部分にある神経細胞の集団。

参考文献
1) https://www.ncasa-japan.jp/ 依存症対策全国センター
2) WHO. Global Status Report on Alcohol and Health 2018
3) Buydens-Branchey L et al. Low plasma levels of docosahexaenoic acid are associated with an increased relapse vulnerability in substance abusers. Am J Addict. 2009; 18: 73-80.
4) Brown J 3rd et al. Binge ethanol-induced neurodegeneration in rat organotypic brain slice cultures: effects of PLA2 inhibitor mepacrine and docosahexaenoic acid (DHA). Neurochem Res. 2009; 34: 260-267.
5) Shi Z et al. Fish oil treatment reduces chronic alcohol exposure induced synaptic changes. Addict Biol. 2019; 24: 577-589.

2022年4月1日
(原馬明子、守口 徹:麻布大学)

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