オメガ博士による最新論文紹介
魚の加熱調理では、DHAやEPAがどれくらい減るか?
いわゆる青背の魚と呼ばれるマグロ、ブリ、サンマには、ドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)がたくさん含まれています。あぶらののった青背魚を、コンロで焼いて、熱々を食べるのが何よりおいしいのは言うまでもありません。日本人に生まれて良かった!と思うひと時です。
ところで、DHA、EPAをこよなく愛するオメガ博士としては、調理の時に滴り落ちるあぶらが、いつももったいなくて仕方がありません。どれくらいDHAやEPAを失っているのでしょうか?そこで、調理方法の違いによって、サンマに残存するDHAやEPAを調べた研究を紹介しましょう。
サンマに含まれるドコサヘキサエン酸とエイコサペンタエン酸の調理後の残存率とその損失メカニズム
脂肪の多い魚であり、日本人の食生活の定番であるサンマのドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)の含有量は、調理後に減少することが報告されています。この研究では、「グリル焼き(グリル内部の温度は350?400℃)」、「フライパン焼き(油なし、フライパン表面温度は約250℃)」、「揚げ(揚げ油の温度は約180℃)」、それぞれの調理方法ごとに、中心部温度*が75、85、95℃になるまで加熱した時のサンマに残存しているDHAとEPAの含有量について調べました。さらに、DHAとEPA損失のメカニズムを探るために、物理的損失、脂質酸化、および熱分解についても検査しました。サンマ内部の温度変化は熱電対センサーでモニターし、DHAとEPAの含有量、酸素ラジカル吸収能、および脂質酸化の測定値(つまり、カルボニル値とチオバルビツール酸値)について化学分析を行いました。調理中の魚サンプル内の温度分布を可視化すると、調理方法によって熱伝達に大きな違いが見られました。図に示した通り、中心部温度75℃まで調理した際のEPAとDHA残存率は、グリル焼きではそれぞれ92、87%、フライパン焼きでは80、85%、揚げでは51、58%でした。また、調理時間の違いにもかかわらず、最終的な中心温度による影響はありませんでした。それぞれの調理方法におけるDHAとEPAの損失の大きな原因は、グリル焼きとフライパン焼きでは肉質から溶け出た脂肪による調理損失によるものであり、揚げでは揚げあぶらへの移行による物理的損失によるものでした。一方、脂質の酸化と熱分解は損失の主要なメカニズムではありませんでした。サンマの抗酸化能は、調理方法によって大きな影響を受けることはありませんでした。この研究の結果は、調理中の物理的損失を最小限に抑えることで、調理済みのサンマに保持されるDHAとEPAの含有量を増やすことができることを示唆しています。
Mechanisms of Docosahexaenoic and Eicosapentaenoic Acid Loss from Pacific Saury and Comparison of Their Retention Rates after Various Cooking Methods
(Cheung LKY, Tomita H, Takemori T. J Food Sci., 81:C1899-907, 2016.)
このような実験の場合、魚の切り身を用いることが多いですが、この研究では、日本人がよく食べる形態である“丸ごと”のサンマを用いて行われています。そのために、切り身等を使用した他の研究より、調理損失は少ない結果であったと著者らは述べています。総括すれば、グリル焼きやフライパン焼きにおけるEPAやDHAの損失は20%程度、一方、揚げではその損失は50%にまで達します。
なぜこのように揚げ調理ではEPAやDHAが大きく損失するのでしょうか。これは、魚と揚げ油の間の油脂の交換が起こることによるものです。つまり、魚油中のEPAやDHAは揚げ油に流れ出て、その一方、揚げ油中に含まれる脂肪酸が魚に入り込みます。これまでにも、いくつかの論文で揚げた魚の最終的な脂肪酸組成が、使用された揚げ油に似通っていることが示されています1)。一般的に調理に用いる調合サラダ油(菜種と大豆の混合油)は、オメガ6脂肪酸であるリノール酸を豊富に含んでいます。
魚に含まれているオメガ3脂肪酸を享受したければ、揚げ調理は避けた方が賢明であることは言うまでもありません。
*中心部温度:食材の中心部分の温度のこと。「大量調理施設衛生管理マニュアル」(厚労省)では、中心部温度が75℃で1分間以上(二枚貝等ノロウイルス汚染のおそれのある食品の場合は85~90℃で90秒間以上)加熱することとしている。
参考文献
1) Weber J, Bochi VC, Ribeiro CP, Victorio AM, Emanuelli T. Food Chemistry, 106: 140-146, 2008.
2021年1月20日
(川端輝江:女子栄養大学)