オメガ博士による最新論文紹介
シカ肉はすごい?!~そのポテンシャルを探る~
ヘルシーなお肉と言えば、皆さんは何を思い浮かべますか?アスリートに絶大な支持を得ているトリのささ身肉、それとも近年人気急上昇の牛の赤身肉でしょうか?
ヘルシーな肉の需要が高まる中、今回は、赤身肉に代わるポテンシャルを秘めた肉として、シカ肉の機能性を報告した研究をご紹介します。
雑誌「Animal」は、近年獣医学系の研究分野で注目を集めている雑誌です。世界中で多くの野生動物が捕獲され、ジビエ肉活用へのニーズが高まる中、紹介する論文では、シカ肉の栄養成分の特徴として、高たんぱく、低脂肪であること、また、n-3系脂肪酸が多く、n-6系脂肪酸とn-3系脂肪酸の摂取比率(n-6/n-3比)が低いことが示されています。
研究者たちは、狩猟捕獲されたシカの栄養成分を性別や年齢ごとに分析しました。その結果、亜成獣(1歳)のシカ肉には、n-3系脂肪酸のDHA(ドコサヘキサエン酸)が成獣(2歳以上)の3倍、EPA(エイコサペンタエン酸)が1.5倍量含まれていることが認められました。また、n-6/n-3比は亜成獣で2.74、成獣で5.04、シカ肉全体でも3.08と低い値を示すことがわかりました。結論として、栄養成分は性別や年齢の間で多少の差はあるものの、シカ肉は家畜の赤身肉の代わりに推奨できる食肉であると報告しています。
(図の説明:シカ肉は、牛肉や豚肉などの家畜と比較してn-6/n-3比が低いです。)
Effects Sex and Age on Nutritional Content in Wild Axis Deer Meat.
(Nikolina KU et al., Animals. 2020,10,1560; doi:10.3390/ani10091560)
一般に、アレルギーなど炎症性の疾患予防の観点からは、摂取するn-6/n-3比は4未満が推奨されています。牛肉(38.00)、豚肉(19.67)(日本食品標準成分表に掲載されているn-6/n-3比)などの他の食肉と比べてn-6/n-3比が低いという報告が多く見受けられるシカ肉は、ヘルシーな肉としてのポテンシャルが高いと言えるでしょう。日本ではイノシシ肉に比べまだマイナーな存在ですが、シカ肉は世界各地で食べられているメジャーなジビエ肉であり、n-3系脂肪酸の供給源として、また高たんぱく、高ミネラルな食肉として、健康長寿に欠かせない身近な食肉の一つになる可能性は十分にあります。そのためにも、機能性のさらなる解明はもちろんのこと、今後はシカ肉の調理特性を把握した、家庭でも簡単に調理できる美味しいメニューの開発などが期待されます。
シカ肉のポテンシャル、しかと見極めていきたいものですね。
2022年1月12日
(籠橋有紀子:島根県立大学)