オメガ博士による最新論文紹介
オメガ3とアトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は増悪・寛解を繰り返す痒(痒み)のある湿疹を主病変とする疾患で、近年増加傾向にあり、2017年には45万人に達しています。アトピー性皮膚炎に対するEPAやDHAなどのオメガ3脂肪酸の影響については、1990年代から検討されており、有用性を示す報告が多く見受けられます1)。日本人の研究でも、外来患者26人を対象に14週間DHA含有魚油を投与した試験で、皮疹は服用2週目、掻痒、潮紅は服用4週目、丘疹、鱗屑および苔癬化は服用6週目より有意に臨床所見の改善が認められている他、皮膚炎の増悪に関係するとされる血中のオメガ6脂肪酸のアラキドン酸含量が、試験開始前の131.0±6.8μg/dlから終了時には116.7±5.8μg/dlと有意に低下し、逆にDHA量が85.2±8.3μg/dlから107.1±8.3μg/dlと有意に増加していました2)。このことから血中のアラキドン酸含量の減少とDHA含量の増加がアトピー性皮膚炎の増悪を抑制し、改善に繋がっているものと推察されました。
昨年、アトピー性皮膚炎の発症に関する興味深い論文が発表になりましたので、紹介します。
テネシー大学健康科学センターのコホート研究の一環として、2006年~2011年間の出生親子を対象に、母親のアトピー性皮膚炎の病歴と出生前の脂肪酸組成が、生まれた子供のアトピー性皮膚炎の罹患にどう係わるか調査しました。対象の1131人の女性は、67%がアフリカ系アメリカ人、33%が白人で、また42%がアトピー性の病歴を有していました。調査の結果、アトピー性疾患の病歴を持つ母親から生まれた子供では、母親の出生前の血中オメガ6脂肪酸組成が高いほど、子供のアトピー性皮膚炎が増加する、またオメガ3脂肪酸組成が高いほど減少することが分かりました。このことはオメガ6脂肪酸の炎症誘発作用が、アトピー性皮膚炎の家族性素因を持つ子供においてより影響を与えることを示唆しています。なおアトピー性疾患の病歴の無い母親から生まれた子供において、母親のオメガ3脂肪酸組成が高いほど、子供の発症が増加する傾向が認められたことについては、出生前に脂肪の多い魚の摂取が多いことが子供のアトピー様湿疹の増加につながったのではないかと推察していました。
Prenatal omega-3 and omega-6 polyunsaturated fatty acids and childhood atopic dermatitis.
(Gardner KG, et al. J Allergy Clin Immunol Pract 8:(3): 937-944, 2020.)
みなさん、いかがでしょうか。子供がアトピー性皮膚炎に罹る原因として、お母さんのアトピー性皮膚炎の病歴に加え、出生前の食事由来のオメガ6脂肪酸が重要なカギを握っていることがお分かりいただけましたでしょうか。子供の健康のためにもご自身の健康のためにも、オメガ3とオメガ6脂肪酸のバランスをよく考えて食事を摂ることを心掛けていきたいものですね。
参考文献
1) Koch C, et el. Br J Dermatol 158:(4):786-792, 2008
2) 西川正純, 魚食とDHA・EPA, 水産振興, 2016
2021年10月1日
(保科由智恵、西川正純:宮城大学)