オメガ博士による最新論文紹介
ハイジが食べていた?チーズに驚き!
「アルプスの少女ハイジ」をご存じでしょうか。主人公のハイジが、スイスのアルプスの大自然の中、多くの動物や植物と仲間たちに囲まれ、山小屋で祖父のおじいさんと共に暮らす物語です。彼女は様々な体験をしながら学び、健やかに育っていきます。その中でも火にあぶって溶かしたチーズ(ラクレットチーズ?)をのせたパンとミルクというシンプルな食事のシーンが強く印象に残っています。こんな食事で病気にならないのはなぜなのか?という疑問を解く研究がありましたのでご紹介します。
循環器分野で定評のある学術論文誌「Circulation」(米国心臓協会発行)に発表された研究を紹介します。世界でも有数のチーズ消費量を誇るスイスのアルプス地方で、総脂肪摂取量が多いのに、心血管病による死亡率が低いという「スイス・パラドックス」の理由が部分的に判明した、という内容でした。
研究班は、アルプス地方の牧草には、n-3系脂肪酸(オメガ3脂肪酸)の一つであるα-リノレン酸が多く含まれており、新鮮な牧草を食べて育った放牧牛のチーズにもこの脂肪酸が多いことを突き止めました。α-リノレン酸は心血管を守る健康にいい油として人気が上昇している「えごま油」などに多く含まれる脂肪酸です。
山岳リゾートとして知られるスイスのグシュタードの放牧牛から搾乳した牛乳で作ったチーズと、世界で最も生産量が多いチェダーチーズ(英国産)でα-リノレン酸(オメガ3)の含有量を比較しました。放牧牛チーズのα-リノレン酸の含有量はチェダーチーズの4倍以上で100g中500mg超含まれていました。加えて、魚の油成分であるEPA(オメガ3)も2倍以上含まれており、逆に大量摂取を避けたい飽和脂肪酸のパルミチン酸は2割程度低いことがわかりました。
High omega-3 fatty acid content in alpine cheese: the basis for an alpine paradox
(Hauswirth CB, Scheeder MRL, Beer JH, Circulation. 2004 Jan 6;109(1):103-7.)
世界各国で昔から食べられている伝統食などの食品にはいろんな秘密が隠されていることが多いようです。同じチーズでも食べる物によってこんなにも脂質成分に差があることを理解いただけたと思います。最近では、日本国内でもグラスフェッドバターやチーズを購入できるようになり、人気が出ているようです。ハイジがいつも元気に育ち、クララの病気も良くなったのは、アルプスの大自然の力もあるかもしれませんね。
このような環境下ですぐに実現は難しいでしょうが、本場スイスに行って大自然の中でとろけるチーズをパンにのせて食べてみたいものです。
2021年9月6日
(長坂泉紀:太田油脂株式会社)