オメガ博士による最新論文紹介
妊娠期のDHA含有サプリメントの摂取が出産に及ぼす影響
我が国では、体重2,500g未満で生まれる低出生体重児の割合が全出産数の約10%となっています。このことは栄養の観点から、バランスの悪い食事や、適正なカロリーを摂取していないことが原因の一つだと考えられおり、魚の摂取量が年々低下していることも関連しているかもしれません。そこで、今回はオメガ3脂肪酸の一つであるDHAを含むサプリメントを魚の摂取量の少ないカンザス州に住む米国人妊婦に投与した研究結果についてご紹介します。
この研究は、2006年1月から2011年10月に米国のカンザス州で行われました。350名の妊娠20週未満の妊婦さんに出産まで、DHA含有油(DHAとして600 mg/日含有;DHA群)、又は大豆油とコーン油を半分ずつ含有する油(プラセボ群)を中身がわからない様にオレンジ風味付けしたソフトカプセルとして毎日飲んでもらいました。試験期間中にソフトカプセルを飲んだ割合は、DHA群78%、プラセボ群76%でした。DHA群の妊婦さんは、平均すると469 mg/日のDHAを摂取した事になります。
出産時におけるこの2群を比較すると、DHA群では、プレセボ群に比べて母体の赤血球膜中DHA割合は2.6%高く(グラフ1)、在胎期間(赤ちゃんがお母さんのお腹にいる期間)は2.9日長く、出生体重は172 g重く(グラフ2)、体長は0.7 cm長く、頭囲周囲径は0.5 cm大きい結果でした。更に、DHA群では、在胎週数34週未満の早産児出産は有意に少なく(グラフ3)、早産児の新生児集中治療室(NICU)入院期間も有意に短く、出生体重1,500 g未満の極低出生体重児の割合は0%でした(グラフ4)。
この研究で、母親と新生児への重大な健康上の問題はありませんでした。
DHA supplementation and pregnancy outcomes
(Carlson SE, Colombo J, Gajewski BJ, Gustafson KM, Mundy D, Yeast J, Georgieff MK, Markley LA, Kerling EH, Shaddy DJ. Am J Clin Nutr., 97: 808-15, 2013.)
妊娠期に十分な魚介類を摂取していると早産や低出生体重児の出産が少ないという疫学研究がかつてより報告されてきましたが、最初に、Olsenら1)がオメガ3を豊富に含む魚介類を摂取している集団はそうでない集団に比べて妊娠期間が長く、出生体重が大きいことを報告しました。
Allenら2)は、早産の原因としてオメガ3摂取が不十分であるとし、また、オメガ6脂肪酸のアラキドン酸から体内で合成される2型のプロスタグランジンという物質が分娩を引き起こすことを述べています。またこの時期に子宮感染があると、そのバイ菌が持つ酵素によりアラキドン酸が遊離して大量のプロスタグランジンが合成され早産に至るきっかけとなる様です。
この研究が行われた米国の2014年のNational Health and Nutrition Examination Surveyによると、妊娠可能な年齢の女性のDHA摂取量は約50 mg/日と非常に少ない結果でした3)。
我が国の国民健康・栄養調査の報告によると、日本人は、これまで魚介類の摂取が多かったのですが、2008年を境に肉類の摂取と魚介類の1日あたりの摂取量が逆転してしまいました。2019年の報告では70歳以上の女性の魚介類の摂取量は、81.6 g/日であるのに対して、20-29歳の女性では41.6 g/日、30-39歳では46.3 g/日と妊娠適齢期の女性の摂取量がかなり少なくなっており、オメガ3が足りないという状況です。従って、若い女性の食生活は欧米化が急速に進行しており、和食の見直しなど、この状況に対して知識を持って改善していくことが、健康な赤ちゃんの出産に重要ではないでしょうか?
参考文献
1) Olsen SF et al. High liveborn birth weights in the Faroes: a comparison between birth weights in the Faroes and in Denmark. J Epidemiol Community Health 39:27-32, 1985.
2) Allen KGD et al. The role of n-3 fatty acids in gestational and parturition. Exp Biol Med. 226:498-506, 2001.
3) Papanikolaou Y. et al. U.S. adults are not meeting recommended levels for fish and omega-3 fatty acid intake: results of an analysis using observational data from NHANES 2003-2008. Nutr J. 3:31, 2014.
2021年6月29日
(押田恭一:大幸薬品株式会社)